アルザスのこちら側

一般言語学を専攻し、学位はとったはいいがあとが続かず、ドイツの片隅の大学のさらに片隅でヒステリーを起こしているヘタレ非常勤講師が人を食ったような記事を無責任にガーガー書きなぐっています。それで「人食いアヒルの子」と名のっております。 どうぞよろしくお願いします。

カテゴリ: 休題閑話

「閑話休題」ならぬ「休題閑話」では人食いアヒルの子がネットなどで見つけた面白い記事を勝手に翻訳して紹介しています。下の記事はうちでとっている南ドイツ新聞に土曜日ごとに挟まってくる小冊子に『悪のネットの中で』というタイトルで2016年12月16日にのったものですが、長いので6回に分けます。

前回の続きです
 
 「協同体スタンダード」という言葉はあたかも学生宿舎の清掃プランのような人畜無害な響きだが、まさにこの規約の裏にソーシャルメディア会社の巧妙に隠された秘密が潜んでいるのである。そこではどの内容をローディングしたりシェアしていいか、どの内容を削除するかが詳細に決められている。強い影響力を持つ大企業が毎日何十億人もの人々の目に触れるのものと触れないものを決めるということで、これは言論の自由と平行するある種の法令である。乳首を露出するのはけしからぬ、いや構わないなどというレベルの問題ではないのだ。なにしろフェイスブックは政治教育したり政治的な影響を強めたりするための最も重要な手段の一つなのだから。どんな画像がシェアされるかということは社会像を作り出すのに決定的な役割を果たす。災害や革命、あるいはデモなどがどういう受け止め方をされるかは、それらのどんな映像がフェイスブックのタイムラインに送ってこられるかにかかっている。にも関わらずその規約の圧倒的大部分が公開もされていなければ、投稿内容がどんな基準によって検閲されるのか、また逆に広められたりするのか、その詳細を立法機関が覗いてみることもできないのだ。
 ソーシャルメディア企業はほとんどその規約のほんの小さな部分しか公開していない。そのうえその規約というのが大抵あいまいな言い回しをとっている。フェイスブックは例えば「当社は、人を危険に陥れるような行動パターンはどんな場合にも容認いたしません」というような事を規約で謳っている。が、どういうものを容認できない行動と見なすのかについての詳しい説明はない。元従業員によれば、こういう規約内容を秘密にしておくのは、巧妙な言い回しをして会社側が自分たちの削除規則をのらりくらりとスルーできるようにしているということを人々につかませないためなのだそうだ。ばかげたロジックだ。国民がその犯罪的な方法をさらに洗練してしまう心配があるといって、国がその法典を門外不出としておくようなものではないか。
 フェイスブックは、自分たちは開かれた企業であって人々がいろいろな情報をシェアできるようにプラットフォームを提供しているだけだ、と示威しているのに、事が一旦自分たちの業務についての具体的な話になると口を閉ざしてしまう。連邦法務省の事務次官で「インターネット内の違法なヘイトコメント対処」の特別委員会の委員長でもあるゲルト・ビレンの言葉によれば、「残念ながら、今のところフェイスブックからは罪に問われ得るような内容にどう対処しているのか透明で他人にもわかるように公開する意図があまり感じとれません」とのことだ。氏は連邦法務省の代表でもあるのに、こんにちまでArvatoに検査をいれる許可が取れないでいる。「ショックを与えるような内容への対応のしかたをどう取り決めているのか、例えば削除のための詳しい規則はどうなっているのか、この作業をする従業員は何人で、どんな資格でやらせているのか、ということですね、そういうことについて何度も透明性を要請しているんです。でも今のところ「そのうち、そのうち」という回答ばかりですね、とビレン。目下法務省はフェイスブックにもっと透明性を要請できるように法を整備することを検討中だ。
 『南ドイツ新聞マガジン』にはフェイスブックの機密規則が大部分が明らかになっているが、同社の機密がここまで大規模に明るみに出されるのはこれが初めてだ。これ以前では2012年にアメリカのウェブサイトGawkerに17ページにわたるさる会社の削除の手引きが暴露された例があるが、この会社もやはりフェイスブックとの契約で仕事をしていた。
 『南ドイツ新聞マガジン』が入手した社内文書はフェイスブックが定めてきた何百もの細かい規定からなっている。どの投稿は削除すべきで、どの投稿は削除しなくていいか、例を多く挙げて示されている。

例えば次のようなものは削除すること:
・公衆の面前で嘔吐している女性の画像に「うえー、あんた大人だろ、キモいなあ」というコメントがついたもの。(理由:コメントがハラスメントと見なされる。身体機能への嫌悪感を表明しているからである)
・チンパンジーの写真のわきで同じような表情を作っているコメントなしの少女の画像(理由;品位を貶めるような画像の出し方だから。人間と動物を明らかに同列に置いている)
・人間を痛めつけているビデオ。ただし「こいつどんだけ痛いだろう、こりゃ見てて楽しいや」などという類のコメントがついている場合のみ。

次のようなものは削除されない:
・中絶ビデオ(ただし裸の画像が映し出されていない場合のみ)
・縊死した人間の画像に「このクソ野郎吊るしてやれ」というコメントがついているもの(理由:この種の死刑への賛成表明なら許される範囲と見なされるから。禁止されるのは「保護されるべき人間集団」を特に名指しているもの。たとえばコメントに「このホモ野郎を吊るせ」などとあった場合)
・コメントなしの、極端な拒食症の女性の写真(理由;脈絡なしで自己傷害的な行動が示されているから)

 過激な暴力内容の処理については例えば15章2条で規定されている。暴力を礼賛することについて。「当社は、人間や動物が死んだり重傷を負ったりする画像にその暴力形式を礼賛するようなコメントがついている場合はその画像やビデオをユーザーがシェアするのを許容しません」とある。つまりその画像に写されている内容そのものは関係なく、画像と文面の組み合わせのみ問題になるということだ。暴力の礼賛と見なされるべきコメントの例がいろいろ挙げられているが、この規定の通りにするならば、誰か瀕死の人間の写真に「おい見ろよ、カッコいいじゃん」とか「このクソが」などと書き込まれた場合にだけ、そういう画像を削除せよというわけだ。

これらの規則のほとんどが理解しがたいものでした。チームの主任に言いましたよ、これはありえない、この絵はあんまり残酷じゃありませんか。こんなものを人の眼に触れさせるわけにはいかない、って。でも主任はただこう意見しただけです、それはあなた個人の考え。フェイスブックがどうしたがっているか、それと同じように考えるようにしないと。機械みたいな考え方をしろってことですよ、って。

 フェイスブック本部からは絶え間なく協同体スタンダードとやらが更新されてくる。Arvatoでは誰かがそれらの変更項目を把握していなければいけない。フェイスブックにとっては非常に重要なのだ。つまりユーザーをプラットフォームから逃がしてしまう原因のことだからである。そしてフェイスブックの最優先目的とはまさにその逆、できるだけ多くのユーザーをできるだけ長くとどめておき、それによってできるだけ多くの広告を見させ、フェイスブックができるだけ多くの金を稼ぐ、ということなのだ。

***

 フェイスブックがここで解決しなければならない課題、それは決してたやすいものではない。人間の持つ憎悪や狂気を押さえつけておく一方でまた、大事な出来事が全く人の目に触れないで終わるようなこともあってはいけないないからだ。ここで削除するしないの判断は、結局ジャーナリズム報道でするニュース選択と同じくらいの広い影響力がある。
 世界では何億人もの人たちがフェイスブックを最も重要なニュースソースにしているのに、同社はメディア企業とは見なされない。企業自身はニュースの中身を生み出していないからだが、メディア倫理上の問題とは関わらないわけにはいかない:暴力の表現はどういう時なら正当か、例えば戦争報道では許されるか?それがより高い目的のためであるということで?そういう、学者達が何十年も考えている問題にソーシャルメディアでは素早く答えを出さなければいけない。7年以上前にネダ・アガ=ソルタンさんというテヘランの若い女性が死亡するシーンがフェイスブックの競争相手ユーチューブに投稿され、最初のテストケースとなった。削除すべきか否か?ユーチューブのチームは「この映像は政治の記録であるからその残虐性にも関わらずネット公開のままにしておく」ことにした。もうかなり前から企業はそのような煩雑な決定のための単純な規則を立てようと試みている。例えばフェイスブックの機密文書には「人が死ぬのを写したビデオはショックも与えるが、自己傷害的な行動、精神的疾患、戦争犯罪、その他の重要な話題についての意識を高めもする」とある。どうしていいかわからない場合Arvatoの従業員はそのビデオを上司に引き渡すように言われている。特に難しい件はダブリンにあるフェイスブックのヨーロッパ本部で処理することになっているそうだ。

特にひどかったのは去年の(訳者注:すでに「二年前」である)パリのテロ攻撃でした。特別会議を招集してその実況ビデオをどうしたらいいか話し合ったんです。サイトにはものすごく残虐なビデオが投稿されました。ほとんどリアルタイムでした。しまいに私たちはこういわれましたよ、投稿内容の大部分をとにかくアラビア語かフランス語のチームに回せって。そこでそのビデオがどうなったかは知りません。

パリでテロ攻撃が勃発した時はチームの主任は私たちコンテンツ・モデレーターを週末休みから呼び出しました。私の所に電話とSNSが来たんです。週末中ぶっ通しで働きましたよ。

***

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「閑話休題」ならぬ「休題閑話」では人食いアヒルの子がネットなどで見つけた面白い記事を勝手に翻訳して紹介しています。下の記事はうちでとっている南ドイツ新聞に土曜日ごとに挟まってくる小冊子に『悪のネットの中で』というタイトルで2016年12月16日にのったものですが、長いので6回に分けます。

前回の続きです。

 世界でどのくらいの人がフェイスブックの内容の削除を職業にしているのか、実証できるデータはほとんどない。フェイスブックのインターナショナル部門、「企業戦略部」の部長モニカ・ビッケルトが3月さる会議の場で明かしたところによると、世界で一日あたり100万以上の投稿がフェイスブックに通報されてくるということだ。が、それらの投稿を削除するのにいったいどれだけの人が働いているのかについては氏は口を閉ざしたままだ。UCLAでメディア学を研究しているサラ・ロバーツはもう何年もこの新しい職業を調べているが、氏の換算によると世界でこの業務をしている人は10万人に上るだろうという。ほとんど全員がサービス会社勤務で、顧客はフェイスブックばかりではないそうだ。ロバーツは様々な国で削除業についている人を大勢インタビューしたが、その何人かには心的外傷がみとめられるという。そしてこれらの人々の精神衛生状態がタイムラインの形成内容に大きな影響を及ぼすとのことだ。彼らの多くがヘイトやセックス、暴力シーンを何ヶ月も見せられたせいで身も心も消耗し、どんな内容でも通過させてしまうようになるからだそうだ。かてて加えて時間がないことが多いから、きちんとした仕事などそもそもできない。

ビデオは全部通して見なければいけないことが多かったです。スキップさせてくれないんですよ、スクリーンショットだけあれば十分な場合でもです。音声が一番ひどかった。これも全て聴かなければいけなかったんですよ。まさにその音声の中に禁止された内容が入っていることがあるからです。例えばヘイトスピーチとかサディズムとか。ほとんど映画同様のビデオもたくさんありました。一持間以上も長さがあってね。

 「コンテンツ・モデレーター」の多くは家に帰っても画像が頭から離れない。そこをさらにチーム主任から報告が来て追い討ちをかける。仕事が遅れているというのだ。追加業務をやってくれるわけにはいきませんかね。その追加業務とやらはとてもさばききれるものではなかった、と従業員の言。この従業員はその後退職してしまった。
 フレキシブルであること、これにはベルリンの人は皆慣れている。特に外国から来てドイツ語の話せない人はそうだ。ここに引っ越して来るのはもはやバイエルンやシュヴァーベンの人ばかりではない、グローバルなミドルクラスの人々が集まってくるのだ:インド人、メキシコ人、南アフリカ人など、若くて教育程度も高いことが多い。しかし彼らは、教育があってもベルリンでは誰も雇ってくれないことを思い知らされる。ベルリンに住む外国人の30%が貧困に陥る危険があるとされている。元従業員の一人の言によれば:

うまい商売をやったねとArvatoを褒めるとしたら、業務地をベルリンに持ってきたことですね。ここは言語や文化のるつぼですから。至急に仕事を探しているスウェーデン人やらノルウェー人やらシリア人やらトルコ人やらフランス人やらがここ以外のどこで捕まえられるもんですか。

 ここにやってきた人たちは多くがなりふりなど構っていられない状態だ。何でもいいからとにかくベルリンにいたいがために、どんな仕事でも背負い込む。自分たちがその仕事より遥かに高い資格を持っていても、その仕事が心に傷害を与え、多くの者がそれで益々感覚を麻痺させられるような仕事であっても。
 Arvatoの削除業務に携わっている人の中に素粒子物理学を専攻した人や博士号保持者、大学教授などがいるのはそういうわけだ。それらの人は難民である場合が多く、自国の職業資格がドイツで承認されない(訳者注:私も日本の大学で取った「学士」を高卒扱いされ完全に大学をやり直しさせられました。『2.印欧語の逆襲』参照)。さる元従業員の言によれば、人々がそういう、精神も肉体もボロボロになるような仕事にやる気を出させるのが極めて難しかったそうだ。昇進はなおさらさせにくい。地位が上がって「コンテンツ・モデレーター」になるとビデオのチェックまでやらされるからだ。

私の人生をメチャメチャにするにはビデオ一本あれば足りるだろう、ということはわかっていました。だからコンテンツ・モデレーターには絶対昇進したくなかった。自分の精神がおかしくなりそうで心配だったんです。コンテンツ・モデレーターはもう想像を絶するようなものすごいビデオを見るんですよ。画像もビデオも

 「コンテンツ・モデレーター」は階級が下のFNRPよりさらにスピーディに仕事をしなければいけない。一件につき時間は平均8秒。それより長いビデオを全部通して見させられることもしょっちゅうなのにである。一日の目標件数は3000以上だった、とさる「コンテンツ・モデレーター」は証言している。これはアメリカのラジオ局グループNPRが11月に他の国の「コンテンツ・モデレーター」から聞き出した数字とほぼ一致する。ただしフェイスブックは放送局に対しこれを否定してきたが。ある元従業員によれば、削除チームの仕事は全てフェイスブックの企業内プラットフォームで行なわれるから、会社にはリアルタイムで全ての数字の報告が行っていると思う、とのことであった。

それらのビデオを本当にはじめから終わりまで通して見てしかもチェックも行う、なんて不可能でしょう。あんまり残酷すぎてとにかく目をそむけていたくなるし。いくらそむけてはいけないといわれても。その上気をつけていないといけないことがいろいろある。これはいったいどの規則に違反しているのかはっきりしないのなんてしょっちゅうです。

一日の目標はこなさないといけない。でないと上司と悶着がおこる。ストレスが凄かったです。

 2016年の春スペイン語の削除チームがArvatoの首脳部に書面を出し、過労や高ストレス、労働環境の劣悪さを訴えた。その書面はたちまち従業員全員の間で巡回された。「私たちは過労のため5分間の休みを要請しました(…)この願いには残念ながら今まで応じて貰っていません。さらに、上で述べた問題点すべてに加えて一部ショッキングな内容のチケットの処理によって引き起こされる精神的苦痛にも言及させていただきます。」
 それでも何も変わりませんでした、と従業員は述べている。そうこうするうちFNRPの従業員は一日1000でなく2000チケットを処理しろということになった、と多くの人が報告している。フェイスブックは『南ドイツ新聞マガジン』の問い合わせにはコメントをしてくれていない。

チームの主任の意見は、「この仕事が嫌なら辞めればいいじゃないか」ということでした。

 目下ベルリンのArvatoでは600人以上がフェイスブックの内容を削除する業務に携わっている、と従業員の一人が供述している。でもその数はどんどん増えているそうだ。2016年の三月にはさらに、歩いて数分しかないところに二つ目のビルが加わった。仕事場には従業員が巨大なフェイスブックのバナーをつるした。

まったく矛盾してますよ。もちろん私たちはフェイスブックの仕事をしててカッコいいと思ってますよ。誰でも知ってるし誰もが好きな会社ですしね。それでまあ、嫌なことは見ないようにしようとはしてるんです。

 当紙の情報提供者に一人は、業務がひどいものなのに辞めようとしているものは驚くほど少ない、と言っている。皆とにかく仕事が必要だからかもしれない。あるいは神経が麻痺してしまっているのか。アラビア語チームの従業員がこう言っている。

仕事はひどいですよ。でも少なくともこれでシリアからの凄まじい暴力ビデオがさらに広まるのが阻止できるわけですから。

 それでも従業員がギブアップせざるを得なくなるようなビデオが繰り返し現れる。

子供をつれた男の人がひとり。3歳くらいの子供かな。そいつがカメラを立てましてね。子供を手に取る。そして肉切り包丁を出す… 私自身子供が一人いるんです。ちょうどその子のような子供です。だから私の子供がその子だったかもしれない。自分の頭をこんなクソ仕事のためにメチャメチャにする必要なんてない。私はスイッチを全部切ってただ外に走り出ました。自分の鞄をつかんで大声で泣きながら市電まで走りましたよ。

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「閑話休題」ならぬ「休題閑話」では人食いアヒルの子がネットなどで見つけた面白い記事を勝手に翻訳して紹介しています。下の記事はうちでとっている南ドイツ新聞に土曜日ごとに挟まってくる小冊子に『悪のネットの中で』というタイトルで2016年12月16日にのったものですが、長いので6回に分けます。

前回の続きです。

 学者たちの理解では心的外傷とは「そのままではそれを克服することのできないような、苦痛を与える事象」をいう。多くの場合身体的あるいは精神的な暴力が原因であり、心的外傷後ストレス障害を引き起こすことも少なくない。ウルム大学病院の精神身体医学の教授でドイツの心的外傷研究財団の幹部会員でもあるハラルト・ギュンデル氏に、『南ドイツ新聞マガジン』がArvatoの従業員をインタビューして作成した証言の写しをいくつか読んでもらった。教授によればそれらの描写には典型的な心的外傷後ストレス障害の症状が現れている可能性があるという。苦痛を与えるような画像やビデオのシーケンス、それが仕事を離れている時でも後から後から目の前にありありと浮かぶ。繰り返し見る悪夢。ほんのちょっとでもビデオの内容を想起させるような状況になると度を過ぎた驚愕反応をしてしまう。体は何処も悪くないのにおこる痛み。社会逃避。消耗感、何事にも無感覚になってしまったようなふるまい。性欲の消失。

子供ポルノのビデオを見てからというもの、本当にもう尼僧になれそうな感じです-セックスとか考えただけでもう無理。もう一年以上もパートナーとか緊密になれてません。触られただけでもう震えが来るんですよ。

突然髪の毛が束になって抜けてしまいました。シャワーを浴びた後とか仕事の最中でさえ抜けます。主治医に言われました、その仕事辞めなきゃ駄目だって。

ひっきりなしに人がデスクから飛び上がってキッチンに走りこむんです。で、斬首のビデオのあと少しでも新鮮な空気を吸うために窓をバーッと開けるんです。酔っ払ってしまうか、やたらと「草」をふかす。でないととてもやっていけません。

 フェイスブックは『南ドイツ新聞マガジン』の問いに答えてこう説明している。「従業員は誰でも精神衛生管理を要求できます。従業員の希望があれば随時要請できるものです。」しかし従業員は異口同音に、Arvatoは精神上の問題は自己処理に任せっぱなしにしていた感じだったと言っている。十分に管理などしてもらえなかったし、すさまじい画像やビデオを扱う仕事から被る精神的苦痛に対してそれなりの準備トレーニングもしてもらえなかった。

私たちはArvatoは精神衛生のサポートをしている、という項に署名させられました。でも実際はサポートを受けるなんて不可能だった。会社は何もしてくれはしませんでした。

 雇用者は精神の苦痛から守られなければいけない、と2013年からドイツ労働法の第4条、第五条で決まっている。「実際に健康上の傷害が生じるまで待っていないで事前にリスクをできるだけ減らしておく、ということなんです」と、法律事務所dkaベルリンの労働法担当の弁護士ラファエル・カルステンは述べる。氏によれば、「コンテンツ・モデレーター」たちが職業医師による健康管理を受けていない場合は労働法違反だろうと言う:「雇用者は実際に効果のある保護措置をとらないといけない。従業員がショックを与えるようなビデオや画像を見た場合は仕事を中断して、いつでも開かれている相談窓口とも相談して自分の状態をよく考えてみる、こういうことができないといけない。できれば医師と相談することです。医師には黙秘の義務がありますから」。しかしArvatoの従業員は誰一人としてそういう相談ができる医者のことなど聞いていない。ソース提供者によれば、予約なしで自由にいつでも来られるグループ会合はあったそうで、問題点を話し合うことになっていたとのことだ。それを行なっていたのは社会教育学専門の女性で、心理学の専門家ではなかったと全員口を揃えて証言している。当紙が話を聞いた従業員にはこの会合に参加した者など誰もいなかった。知りあいでもない職場の同僚の前で自分の極めて個人的な問題を口に出すのは気おくれするものだ。
 さる女性従業員は繰り返しその社会教育の人と個人的に会合してもらおうとしたが、長い間待たされて結局あきらめてしまった。『南ドイツ新聞マガジン』の問い合わせに対し、精神衛生の担当者がどんな資格を持っているのか、あるいはその人物は黙秘の義務をになっているのかについてフェイスブックからは正確なデータを示してもらえていない。

私が出て来た部署だったら、ソーシャルワーカーなんて私が話したことをすぐ全部私の上司に報告したでしょう。で、その上司にクビを言い渡されますね。この会社を信用してる人なんてチームには誰もいませんよ。どうして自分たちの心配事を打ち明けたりするもんですか。

 しかし、職業上残酷なメディアの内容と向き合っている人たちに対して、対処の方法はあるのだ。例えば青少年に害のあるメディアをチェックしている連邦検査局は残酷ビデオも検査しているが、新入りの従業員にはショックを与えるような内容の扱い方について定期的なトレーニングがある。「そういう映画をいっぺんに見る必要はない。いつでも中断していい、何か他の事をしてからまた戻ってきて再開できるんです」と連邦検査局のチーフ、マルティナ・ハナク-マインケは言っている。ソーシャルワーカーと個々に会うことができるし、心理学や心的外傷の専門家もいつでも待機している。従業員がきわめてショッキングな資料を吟味している別の部局には厳しい規則があって、そういう映画を吟味するのは週当たり最高8時間が限度、さらにそれが与える影響のことをその場で話し合いできるよう2人がチームを組んで行なう。こういう仕事のために特に訓練された法律家を雇い入れるところも多い。

国では軍隊にいました。だから戦争や死体の画像にはショックを受けません。私が参ってしまったのは何が出てくるかわからないからです。頭から離れないビデオが一つある。女の人がハイヒールで子猫をグチャグチャに踏み潰すんです。セックス・フェチのビデオの一部ですよ。人間にこういうことが出来るなんて考えたことがなかった。

この猫ビデオは削除となった。『南ドイツ新聞マガジン』が入手した社内文書の15条1項に違反するからだ。サディズム。「性的サディズムとは他の生き物の苦痛をエロチックな楽しみとすることである」。さすがのフェイスブックでも許容されないのである。

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前回の続きです。

 これらの規則を実行に移すのは従業員には荷が重過ぎるのである。多くの者が報告しているが、研修ではそれらを書き留めることが許されていなかったそうだ。機密になっている規則が外部に洩れないようにとの安全措置なのである。

協同体スタンダードは四六時中変更になりました。以前は切り離された首の画像とかはその様子をリアルタイムで流すのでない限りOKだったんです。なんなんですかね、この意味のない規則は?こんなことを決めたのは誰なんですかね?

 協同体スタンダードにはヘイトスピーチに関する章があって、どういう中傷なら許されるか定められている。そこには「本来フェイスブックは、難民攻撃の内容は削除しませんでした。難民は保護されるべきカテゴリーに属していないからです。しかしそのためフェイスブックのガイドラインに関してネガティブ報道がなされるようになり、ドイツが自国におけるフェイスブックの活動の差し止めにする恐れが出てきました。その結果協同体スタンダードを更新し、難民にもしかるべき保護措置をとることとします」とある。ここではフェイスブックがどのような内容を禁止または削除するかを定めた規則は政治や世論の圧力に影響されることがはっきり見て取れるが、他方ではフェイスブックのような企業が抱えている根本的な問題点が浮き彫りになってもいる。何が、あるいは誰が社会で特別な保護措置を享受できるのか。このことはドイツでは何よりも先に憲法で定められるべきとされ、企業イメージを損なう恐れが出ればさっさと対応して変更できる一企業の規則などで規定されるべきものではない。理論的には次のようなこともありうるからだ:アメリカ合衆国の社会コンセンサスがひっくりかえり、イスラム教がフェイスブックで受ける保護措置が突然軽減されたとしたら?イスラム教徒に向けた扇動が、フェイスブックの社内機密文書によって保護されている他の宗徒、キリスト教、ユダヤ教、モルモン教徒に向けたものほど追求されることがなくなったら?水面下でそうなっても公共の場には決して知らされないだろう。協同体スタンダードのごく小さな変更でさえ、世界で何十億人もの人々が毎日のように目にしているものに大きな影響を及ぼすのにである。

私たちは本当に多くの苦しみを目にしました… でもそれらの画像に出ていた人たちがその後どうなったのかは永久に知ることができません。この子たちはいまは何をしているのでしょう?犯人は捕まるのでしょうか?

 Arvatono従業員がチェックする内容は、道徳観念ばかりでなくドイツの法律にも反している。違法な投稿をフェイスブックはどう処理すべきなのか、これは実は複雑なのである。メディアとIT関係を専門とする法律家ベルンハルト・ブーヒナーの言に寄れば、ドイツの法律では、プラットフォームの運営者は具体的な違法行為または違法な情報のことを知ったら直ちにそれを削除するか、それへのアクセスをブロックしないといけないことになっている。それをしない場合、フェイスブックのような企業には会社自身が法的責任を問われる危険が生じる。そればかりではない。刑法138条からすると、一連の違法行為については、誰かが本気でその計画を立てていることを知ったら、必ずその計画を告発する義務が生じるようになっている。例えば誰かがフェイスブック投稿で同級生を射殺すると声明を出し、それが本気でありそうな場合、その投稿を削除するばかりでなく通報する必要があるのだ。当局または脅されている当事者にである。
 フェイスブックが子供ポルノをアメリカの「行方不明または搾取された児童のための国立センター」(NCMEC)に転送することは今までにも知られている。NCMECに指摘されてきた情報はすべてそこでよりわけられてさらに詳しく捜査するためにアメリカ国以内または外国のしかるべき刑事訴追当局に転送される、とドイツ連邦刑事局が『南ドイツ新聞マガジン』の問いに対して説明。「罪になる行為が連邦領内から行われている限り、その件についての利用可能な情報が連邦刑事局に送られます。」子供ポルノばかりでなく他の違法行為もフェイスブック経由でドイツ当局の手にわたるのか?フェイスブックは詳細を発表していない。

***
 Arvatoにも「コンテンツ・モデレーター」の扱いについて懸念する人たちはいる。しかしフェイスブックはそういう人たちにこういう幻想を与えて慰めているのだ;そのうち人工知能によってコンピューターが利用規約違反の内容を見分けられるようになるだろう。フェイスブック、ツイッター、グーグルやマイクロソフトがつい数日前発表したが、将来的には自社のサイトのテロのプロパガンダを共同のデータバンクにセーブして「デジタルの指紋」をつけておくようにするつもりだとのこと。そうやって、例えばツイッターで削除された画像は自動的にフェイスブックでも削除されるようにする。この考えは一方では希望を抱かせるものではある。そうなればもう人間がこれらのホラーに身をさらさなくてもよくなるだろう、という希望。だがさらに想像してみるとこれは恐怖なのだ。何十億人もの人々がフェイスブックで目にする内容をアルゴリズムが決める、何が残酷で何が残酷でないか、どこまでが風刺で何処からがテロリズムかをコンピューターが判断することになるからだ。

誰かがこの仕事をやらなくてはいけない、それはわかっているんです。でもそれはそれ用の訓練を受け、援助もされている人々であるべきで、私たちのようにただ無造作に犬の前に行かされた人たちであってはいけないんです。

いつもこういう夢を見るんですよ:人々が燃えている家から走り出てくる。地面でバラバラになってしまいます。一人また一人と血でできた水溜りに倒れていく。私は下に立って人々を受け止めようとするんですが、大勢過ぎて、重すぎて、脇によけざるを得ない、でないと当たってこちらが死んでしまう。私の周りにはたくさん人がいる、助けようとしない人たちがたくさん。助ける代わりにケイタイで写真に撮ってるんですよ。

 調査が進んでいく間にも私たちは情報提供者にその後どうしているか繰り返し尋ねた。
 一人は悪夢はどうにか克服したといい、ただ昼間時々画像が心に浮かび上がって来るとのことだった。この人は先日電球を取り替えようとして梯子に上って何気なく下を見たとき、突然ISの手先の者がこいつらは同性愛者だといって屋根から投げ落とした人たちが地面に叩きつけられて行くのを見ているような気がしたそうだ。何人かはもうドイツを出て、この国から遠いところで暮らしている。別の何人かは公園に行けば人が動物を虐待しているように、浜辺に行けば誰かが子供を虐待しているように見えて苦労している。この女性はArvatoを辞めて心的外傷の心理セラピーを申請した。さらに一人はドイツ語の講習を受け、もともとやっていた職業をドイツでも生かせるようにしたいと望んでいる。
 まだArvatoに残っている従業員で、この先もこの会社に留まりたいと考えている者はいない。

『南ドイツ新聞マガジン』編集後記:
この記事の執筆者は情報提供者に、こういう削除作業をさせられたあとでもプライベート生活でフェイスブックを使うかどうか聞いてみた。ほぼ全員がイエスと答えたそうだ。「これはほとんど中毒ですね」と彼らは言っているという。

元の記事はこちら
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念のため:私はこの新聞社の回し者ではありません。)



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「閑話休題」ならぬ「休題閑話」では人食いアヒルの子がネットなどで見つけた面白い記事を勝手に翻訳して紹介しています。下のインタビュー記事は『人生のドラマ』というタイトルで2017年8月24日の南ドイツ新聞に載ったものです。

1944年ドイツ国防軍はトスカーナでロベルト・アインシュタインを探し出そうとしていた。アルベルト・アインシュタインの従兄弟で友人でもあった人である。ドイツ軍はその妻と娘達を殺害した。姪のロレンツァとパウラだけが生き残った。


インタビュー:ユリウス・ミュラー-マイニンゲン

1944年8月3日、ロレンツァとパウラ・マッツェッティにとって世界が瓦解した。トスカーナのヴィラでドイツ軍の兵士達がこの双子の姉妹の養父を殺害したのである。この殺戮行為は本来アメリカに移住したノーベル賞物理学者のアインシュタインを狙ったものだったのか?現在90歳になる姉妹はその最後の生き証人だ。8月24日にフリーデマン・フロム監督による『アインシュタインの姪たち』という映画がドイツ公開される。当紙は公開に先立ってその主人公たち本人にインタビューを行なった。

マッツェッティさん姉妹
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南ドイツ新聞:マッツェッティさんたちの人生のドラマはお母様の死で始まっていますね。マッツェッティさんたちがお生まれになるとすぐ亡くなられましたが

ロレンツァ・マッツェッティ:私たちは母を全く知らないんですよ。医者たちは母はおなかに腫瘍ができたんだと思ってたんです。双子が生まれるとは誰も思わなかったんですよ。

ロレンツァさん
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パオラ・マッツェッティ:父は母に死なれて途方に暮れてしまいました。私たちは子守の人に育てられたんです。

パオラさん (双子だからそっくりですね)
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アインシュタイン家に来ることになったいきさつは?

ロレンツァ:私たちの父の妹のチェザリーナ・マッツェッティがね、皆ニーナと呼んでいましたが、その人がね、自分の夫に私らを養子にしようと提案したんですよ。「ねえロベルト、私たちにはもう二人娘がいるけど、母をなくした姪たちがいるのよ。父親1人じゃ育てられないわ。二人を引き取って育てましょうよ!」って。

ロベルト・アインシュタイン氏はアルベルト・アインシュタインの従兄弟で親友でもありましたね。二人とも最初ミュンヘンで育ち、ご両親の電機会社があるパヴィアに引っ越してからはイタリアでお育ちになりました。マッツェッティさんのご家庭でアインシュタインはどんな役割を果たしていたんでしょうか?

パオラ:アインシュタインから教わったことは本当に多いですよ。大きな自由の精神が行き渡っていてね。スノッブとか本音を隠したりとか何かの振りをしたりとかね、そういう人はいませんでした。ヒッピーのメンタリティみたいなのが行き渡っていました。自由にものを考えること、これを教わったんです。

ロレンツァ:アインシュタイン家は一種独特なメンタリティで、私たちもその中で育ったんです。ロベルト・アインシュタインの妹はチューリヒで物理学の教授をしていました。フィレンツェに住んでいて私らもちょくちょく遊びに行っていたアルベルトの妹のマヤもしっかりそのメンタリティの権化でしたね。芸術家が大勢遊びに来ていて、いつも音楽を演奏してましたよ。

アルベルト・アインシュタインとはどんなお付き合いをなさってましたか?

ロレンツァ:アインシュタインが家に来ていた頃は私たちはまだ本当に幼かっんです。でもブランコに坐って皆と話をしていた年かさの男性を覚えてます。私ら子供たちとも話をしてましたよ。

パオラ:私はその他に皆で家に来た人を捕まえて捕虜にして遊んだのを覚えてます。アルベルトおじさんも捕虜になったことあると思いますよ。家にはアルベルトの大きな肖像画がありますしね、まあアルベルトはずっと私らの家でいっしょなんです。

ロレンツァ:ロベルトおじさんはよく昔の話をしてくれました。二人がパヴィアで学校に通っていたとき、バスで行っていたこととか。アルベルトが切符を買おうとして小銭を間違えた、そしたら運転手から怒られて「バスに乗る前に数学をちゃんとやってこい」といわれたんですって!もう大笑いですよ。

アインシュタインが天才であることは当時からご存知でしたか?

ロレンツァ:すでに兆候はありましたよ。しょっちゅう裸足で歩き回ることとか、有名な話でした。アルベルトおじさんは、単に靴下をあと何足か揃えればいいということがわからなくてね。その代わり手持ちの数少ない靴下を洗ってはそれが乾くまで裸足で歩いてたんです。

パオラ:ロベルトとアルベルトは小学校がいっしょでした。いつか通信簿を貰ってアルベルトの欄に「児童アルベルトはやや精神発達が遅れている。答えるのに時間がかかりすぎる。他の児童は遥かに答えが早い」ってあったって。素晴らしい話ですわ!

ロレンツァ:そう、天才といえば、一度手紙を貰ったことがありましてね、そこでアルベルトおじさんがこう書いてました;『子供たちよ、こんなに優秀で天才的な姪が二人いるなんて私は嬉しい、幸せだよ』って。

その手紙を貰ったきっかけは?

パオラ:1944年8月3日の悲劇の後、ロレンツァと私で歌を作詞したんですよ。その一行は「悲劇が起きたこところ、痛みのあるところ、魂はそこで清められる」というものでした。それを山岳救助隊の合唱団が歌ってくれてラジオで放送されたんです。そのニュースが載っている新聞記事をアルベルトおじさんに送ったら返事をくれました。

ロレンツァ:そのうち失くしてしまったんですけど、それまではその手紙はいつも手元においてました。ああやって生活がメチャクチャにされた後、映像芸術を勉強しにロンドンに行きましたけど、そこでもずっと持ってました。スレイド美術学校の面接試験でね、この大学でどうしても勉強したい理由は何かと学長から聞かれました。私答えたんですよ、「私は天才だからです」って。その手紙はまあ何か起こったときの保証書みたいなもので。何かあったらアルベルトおじさんに手紙を出せばすむわとも考えてたんです。アルベルト・アインシュタインの世界と似たような世界を求めていたんですよ。

その世界はマッツェッティさんの育ての母であるニーナ・マッツェッティの殺害によってアインシュタインにとってもニーナの娘さんたち、ルーチェとチチにとっても崩壊してしまいました

ロレンツァ:ニーナ伯母さんと二人の女の子が殺された理由はアインシュタインでした。ヒトラーが最も憎んでいた人でしたから。アインシュタインは1933年にドイツを出ていた、ユダヤ人であるばかりでなく、平和主義者であらかさまにナチの悪口を言ってましたから。アインシュタインは象徴だったんですよ。それに加えてヒトラーはそのアインシュタインなしでは原爆が作れませんでしたしね。叔父さんに対する憎しみは相当なものでした。アインシュタイン本人を殺すわけには行かないから、ヒトラーはその家族を殺すよう命令したんです。

ヒトラーはアインシュタインに復讐しようとした?

ロレンツァ:連合軍がヴィラに到着する直前に家族を殺害するよう詳細な指定を出していたんです。

パオラ:イギリス軍はその翌日にはもう到着していました。それで余計大事になったんです。そこら中でもう機関銃射撃や爆発音が聞こえていました。ドイツ人は本当に大急ぎだったに違いない、そのすぐ前に部隊が一隊ヴィラに来てロベルト・アインシュタインがどこにいるのか訊ねました。それで養父は身を隠したんです。ドイツ人たちがニーナ伯母さんに、森へ行ってロベルトを呼んで来いと命令しても叔父は出て行きませんでした。そういう約束になっていたんです。

マッツェッティさんたちはその数日前に17歳になられたばかりでしたが、それからどうなりましたか?

ロレンツァ:コマンド部隊は家にいた者を皆駆り立てて二階の一部屋に閉じ込めました。指令権のある将校は家の中でダイナマイトが見つかったと言いはりました。それで簡易裁判をしましてね、その後は皆行っていいことになりました。まだ年のいかない若い歩哨がライフルをこちらに向けて立っていました。

パオラ:小さな特殊部隊でね、国防軍より色の黒い制服を着ていました。最初にニーナおばさんが、それからルーチェとチチの娘たちが下に呼ばれていきました。銃声が3発と機関銃の音が聞こえました。私たちの見張りをさせられていたその若い兵士がね、多分私たちと同じくらいの年でしたが、体中震え出してね。顔が涙でくしゃぐしゃなんですよ。そのときやっとわかったんです、何が起こったのか。

ロレンツァ:私はサロンで遺体を見ましたよ。将校から答えを聞きだそうとしました。部下が私を引き離して叫んだんです、「出ろ、早く出て行け」って。彼らは本当に急いでいました。私たちが外に走り出ると、ヴィラから炎があがっているのが見えました。ドイツ人が火をつけたんです。犯人達は木にタイプで打った紙切れを残していきました。

そこには何と書いてあったのですか?

ロレンツァ:「アインシュタイン一家はスパイ罪で有罪である。一家は常に敵の連合軍と連絡を取っていた。1944年8月3日戒厳令にしたがって銃殺。司令官」

パオラ:作戦行動がアルベルトの従兄弟のロベルトとその家族に向けられていたことは明らかです。あの地域にはユダヤ人がたくさん住んでいました。でも標的はアルベルト・アインシュタインと親しい付き合いがあった養父ロベルトだったんです。

その後どうなりましたか?

ロレンツァ:アルベルト・アインシュタインは自分の事だという受け取り方をしました。私たちに小包を送ってもくれたんです。でもとうとう届きませんでした。アインシュタインはこういう状況にいる私たちに光を一条ともそうとしてくれたんです。

パオラ:ミルトン・ウェクスラーというアメリカの将校が殺害事件に関する情報を欲しがりましたが、アメリカの検閲に引っかかりました。当時合衆国と敗戦側との間で解明の動きがあったとは思えません。厄介な捜査をして敗戦側にあまり負担をかけるなということだったのでは。

ご自身で事件を解明しようとされたことは?

ロレンツァ:殺人命令を出した指揮官を写真で見たことがあります。その人であったと確信しています。パドゥレ・ディ・フチェッキオの大虐殺に関わったとしてイタリアで本人不在のまま無期刑を言い渡されました。そこでは民間人が184人銃殺されました。その人は今ミュンヘンで何不自由なく暮らしてますよ。2016年に私はドイツの検察庁にその人を訴えましたが、裁判は取り下げられました。私たちはこの人の生活を妨害したいわけじゃない、もうそろそろ真実を明るみに出したいだけです。

ロベルト・アインシュタインはどうなりましたか?

パオラ:1945年の7月に自殺しました。苦痛が大きすぎたんです。ニーナ、ルーチェ、チチが殺害された後は私たちはまた実父に引き取られました。このことも叔父の自殺願望を強めてしまったのではと想像しています。

アルベルト・アインシュタインが亡くなる1955年までにまだコンタクトはありましたか?

パオラ:アインシュタインは親切な手紙を何通かくれましたよ。でも私たちは当時精神が錯乱していてアメリカのアインシュタインを頼ろうという考えが浮かばなかったんですよ。私たちがやっとのことで何とか人生を立て直したときはすでにもう遅すぎました。

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念のため:私はこの新聞社の回し者ではありません。

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「閑話休題」ならぬ「休題閑話」では人食いアヒルの子がネットなどで見つけた面白い記事を勝手に翻訳して紹介しています。下の記事は2018年10月23日(ちょっと古いです)の南ドイツ新聞印刷版とネット版に同時にのったものですが、当ブログの記事『113.ドイツ帝国の犯罪』で名前を出したJürgen Zimmerer教授の投稿です。ネットのでなく新聞の記事のほうをもとにしましたので、レイアウトなどちょっと違っているところがあります。原文のタイトルは「やたらと煙がたっているわりには火が出ない」というものでした。

ドイツ連邦政府は本気で植民地支配の歴史を見直そうとする気があるのか疑わざるを得ない。

ユルゲン・ツィメラー

 自国の植民地政策の処理の見直し問題でドイツは今ターニングポイントに立っている。政府は何年も前から当時の南西アフリカで行ったジェノサイドの扱いについてナミビアと交渉してきた。夏には連邦政府の文化・メディア部門を担当しているモニカ・グリュッタースがドイツ博物館連盟に向けて、植民地時代に収集した物件をどうすべきかについての手引き第一稿を提出。連邦政府の連立契約にも今回初めて東ドイツや第三帝国時代の処理とともにこの植民地支配政策の見直しの件が取り込まれている。
 しかし本当に今後本気で処理していく気があるのだろうか?批判的な声はすでに前々から出ていて警告を発していたのだが声が大きい割にはあまり目に見える変化が見られない、煙はもうもうと立っているのだが火がでていないのである。例えば植民地から運んできた物件の出所の調査を促進せよという政治イニシアチブだが、これに対しても言い分がある:この調査をする機関が基本的には博物館内部に設置されていることだ。博物館自身でその所有物件の調査をしていいということで、中立な監視もないし、外部の協力もなく、あくまで内部のヒエラルキー構造の内側でやるということ。それでは外側に漏らす情報のコントロールはできるだろうが、失われた信ぴょう性は回復できない。「世界遺産」とか「共有遺産」などという観念を持ち出すと本来の問題がさらにかすんでしまう。なぜこの遺産がほぼ全部北半球にあって、南で称賛してやることができないのかという問題が。
 フンボルト・フォーラムも、ただ単に喪失している植民地支配の記憶を戻そうとするのさえ拒否して騒動が危険なレベルになったが、ここでもやはり国内外の批判者とは議論するのを避けている。議論をする相手は自分で選んだ方がよろしいというわけ。そうこうするうちに新しいディレクターのハルトムート・ドルガーローがきちんと起動するエスタレーターの設置計画の方を(ポスト)植民時代の遺産についての議論より重要視しだした。わかることはわかる。何事もマネージャーが必要だし、極めて時間に迫られてもいるわけだから。それでも言わせてもらうが、未来のことを考えるなら他のやりかたを取るべきだ。
 かてて加えて20世紀最初のジェノサイドを認定する件も結局全然進捗していない。連邦議会の承認もないし、首相や連邦大統領の謝罪もない。
 首相も外相もこの問題についてはすべて口を閉ざしており、文化政策担当の政治家に丸投げする気らしい。植民支配の見直そう、植民支配の思想から脱しようという意思が政治権力の中枢まで届いているのか否か?連邦政府が個人的に委託したアフリカ問題顧問、以前に東独で人権問題に携わっていたCDUの政治家ギュンター・ノーケが行ったインタビューを見ると強い疑問がわいてくる。
 ベルリン新聞に対し、氏は植民支配は「現在にも影響を及ぼしている」ことを認め、「北アメリカの奴隷交易は悪い事だった」と言ってはいる。一方「植民支配は大陸全体を先史時代的な構造から解放した」とのことだ。そもそも「冷戦の方が…植民支配よりよほどアフリカの害になった」と。
 氏の政治使命がどういう分野なのかを考えただけで、この発言、いやそもそもこのインタビュー全体がすでにスキャンダルである。これが首相のアフリカ担当者の発言だろうか!氏がこの調子なのに他の誰に歴史を知れというのか。ホロコーストについての基本的知識さえ持たない、いやそれどころか史実を意識的に捻じ曲げるイスラエル担当官というのが想像できるだろうか。強制連行、自由の剥奪、何百万人もの人々の死、これらに対して「悪い」などという完全に不適切な言葉を使う。それくらいはまあ目をつぶってやろうとする人がいるかもしれない。だが氏は人が連れ去られたのは北アメリカにとどまらず、それ以上の人が南アメリカで奴隷にさせられた事実は全くご存じないらしい。いやもうこのインタビューには植民支配のイメージがしっかり織り込まれている。氏にいわせれば「アフリカは違っている」。ありふれた言い回しだが、本音が透けて見える。そこにはアフリカは近代的ではない、ひょっとしたらいまだに先史時代だとの認識がしみ込んでいるからだ。そしてその実例として出生率の高さに言及し、ニジェールをその極端な例とし、しかもそこでもう使いものにならない古い数値を持ち出す。氏がこういうことをするなら、少なくとも軽率だとは言わせてもらう。
 ノーケはまたヨーロッパは文明を伝播したという例のメルヘンを蒸し返し、植民支配のプロパガンダを行う。氏にすれば植民支配をもっとポジティブなイメージにしなければということなのだろうが、それどころか自身の政治見解が植民支配の続きそのものだ。その調子でノーベル経済学賞ポール・ローマーの思想を拠り所にして、地中海で難民が死んでいくのを食い止めるためにはアフリカに治外法権の飛び地を作れと言い出す:もちろんアフリカ人の福利のためというわけである。植民支配する側の利益を植民支配をされる側の福利だと主張する、これこそまさに「文明の伝道者」の中心要素だった。今もそうだ。
 しかしノーケの考えは植民時代の記憶をなくすのがいかに危険かも示している。私たちはこの手の飛び地が政治的に極めて危険なことを知っているが、それは植民の歴史を見てきたからではないか。治外法権の飛び地を作るのは単に植民地としてそこを占領するための典型手段というばかりではない、それをすると事が自動的に進行しだすのだ。例えばそういう飛び地の一つで騒動が起こったり、外から脅威が迫ったらどうなるだろう?それぞれの飛び地を管理している機構が中の住民を守るために介入しないといけなくなる。そしてその際犠牲者が出ればそのままにしておくことはできず、面目を保持するために増援を送らなければならない。インドなどもそうだったが、そうやって植民帝国全体が植民地化されていったのだ。そしてドイツの植民地帝国自身もそうやって成立したのだ。このことをノーケは知っていなければならない。何といっても交渉しているのは連邦政府、そして氏はその代表のアフリカ担当官なのだ。
 このノーケの件で問われているのはノーケ自身だけでなく、連邦政府全体の信用問題だ。ノーケの扱いの如何によって、政府の連立契約が植民支配の見直しにどれだけの価値があるのか見えてくる。また、モラルの点でそれなりの理由があったなどという言い訳は全部置いておいて、とにかく植民地支配の歴史についてきちんと啓蒙するのが不可欠ということもはっきりしてくるだろう:植民支配を記憶から消してしまおうというのは間違った政治選択である。
 そろそろ本気で植民支配時代の見直しを始めるべきだ。博物館や収集品云々に話を限ってはいけない。オープンでないといけない、そして市民社会全体が自由に参加でき、当時の植民地出身の市民や同僚たちとも議論するようにしないといけない。最近設立された文化会議が、連邦、州、共同体からなる研究グループを作って植民地からの物件の処理を検討していくと発表した。仕事の範囲を広げて植民支配の記憶が残っている地域はすべて網羅し、植民支配について学習、研究する場所をつくるのが目標とのことだ。

元の記事のネット版はこちら
この問題についてのパネルディスカッションはこちら。司会を務めているのがツィメラー教授です。


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