ドイツ鉄道がいかにスリル満点かは今までにも書いたが、先日またしても面白いことになった。私はさる路線で G(ゴキブリではない)という町に行っている。ところが先月の半ばから今月の半ばにかけての一ヵ月ほど、その路線のど真ん中がかなり長距離に渡って「通行止め」となった。線路の修理工事のためだそうだ。大井川の川止めかよ。その閉鎖された部分では代行のバスが走るそうだが、私はこれまでの経験からこの「ドイツ鉄道が用意するバス」の信用度には絶大に懐疑的だったので、遠回りにはなるが電車の別路線を使うことにした。
普段の路線では住んでいる町から Gに行くのにまずライン川をわたって Lメイン駅を通る。この Lメイン駅の恐怖ぶりも今まで散々書いたとおりである(『189.恐怖のメインステーション』、『28.私のせいじゃありません』参照)が、そこを通過してライン川の西側を南に下ると G につく。この路線がまた何かと悶着の起こる路線で、G までは正式には40分くらいしかかからないはずだが、その時間内についたことがない。15分遅れくらいがデフォ、一時間遅れもザラ、最高記録は6時間の遅延である。本来40分の距離でそんなことができるわけがないだろうと思われるだろうが、それができたのだ。私のところの町の駅構内で大送電線がブチ切れ、周り一帯の電車の運行が全てストップしたのである。あらゆる電車が出るも入るもできない。事故の原因がわからないから修理も大幅に手間取り、私など一度家に帰ってまた出てきたら、何時間か前に私が座っていた電車がまだ同じホームにいた。結局その電車もそのホームのシグナルが使えないとかで車庫に戻され、別のホームから別の電車が出ることになった。そのまた電車も路線の途中で突然ストップし、私たちは唐突に代行バスに乗せられた。まるで悟空の大冒険だ。このG からさらに先に進むとフランスに行けることは『59.フランス訪問記』で書いた通りであるが、出だしから電車がストップしたらフランスもク〇もない。 まず駅を出ろ。
とにかくこの路線はLメイン駅ばかりでなく、そもそも路線全体が鬼門である。それで今回は路線が繋がるまでの間別の行き方をとることにした。
代行路線では最初にライン川を渡らずに東側を南に下り、じゅうぶん南まで来た地点で別の電車に乗り換えライン川を渡って G に行く。乗換駅は G.N 駅と言い、電車の連結点である以外は何の取り柄もない不愛想な駅だ。それまで乗って来た路線は先に進んで K という大きな駅まで行く。私の家から直接 G まで行くのとこの G.N 駅まで行くのとでは距離がほぼ同じ、つまり私のとった代行路線では G.N 駅からGまでの走行分だけ長くかかるということである。この乗り換え路線は G.N が始発ではなく、B という駅から来ている。その B と私の家の駅とはさらに別の路線で直接つながっていて、私んちから乗るとBを通って最終的にはやっぱり K に着く。図に書くとこんな感じになる。

ライン川は州境を成していて、東側、うちと G.N、 B 、K 駅は同じ州、図には出ていないが恐怖の Lメイン駅と目的地 G 駅はラインの西側にあって別の州だ。今までも薄々感じてはいたが、今回ラインの東側と西側では鉄道事情にエラい差があることを改めて実感した。東側州はベンツや SAP を擁する金持ち州、西側は工業よりワインなどの農作物で持っている、こう言っちゃナンだが割と貧乏な州である。G.N までいく路線も管理部が東側州にあるからか電車もオサレでモダンなスタイル、内部もそれに応じてピカピカだ。しかも信じられないことに遅滞も5分以内。走っていると隣を時々 ICE などが抜いていく。駅も沿線の町も大きなものが多い。とにかくいろいろにぎやかというか華やいでいるのだ。
お金持ち州の管理するピカピカ路線の車両。
https://images.tagesschau.de/image/e05d72a5-e598-4165-ba91-5f270a0d5280/AAABibuxrKw/AAABibBxqrQ/16x9-1280/swr-auch-die-landeseigene-verkehrsgesellschaft-sweg-wird-von-den-streiks-betroffen-sein-100.jpgから

それがG.Nで乗り換えて G へいく電車に乗ると一変する。G 行き路線もライン川を越えるまでは東側金持ち州を走っているはずだが、主な走行範囲が西側貧乏州だからか、ドイツ鉄道が直接管理しているためか、どうもないがしろにされている感じで車両のモデルも古くてダサく、乗っていて全然楽しくない。私の家から G までの直接路線のほうもこの車両だが、その時は比べるものがないからこんなものかと思っていた。しかし今回 G.N までの路線とG.Nからの路線の差を目の当たりにしてみると、その落差には驚愕せざるを得ない。しかも一時間に一本と言うローカルぶりだ。線路はその路線専用なんだし、そんなに運行時間が開いていれば前の便が引っかかったり他同じ線路を使っている他の路線の便がポイント故障を起こしたりしてスケジュールを滅茶滅茶にされる危険性がないわけだから、すんなり運行できるかと思いきや、平気で遅れる。今時単線だからだ。途中の Ph という駅でのんびり対向車が通過するのを待たなければいけない。直接路線も周りの景色などはローカル色満載だったが、いくらなんでもさすがに複線ではあった。G.N から G では単線と言うだけでなく周りの景色がさらに凄い。もちろん大きな町などはなく、そもそも人家そのものがまばらで、駅も圧倒的にショボい。こんなところで終電を逃したらどうなるんだろう。絶対夜はこの路線に乗りたくない。
いちど途中の駅の線路わきを3羽のニワトリが闊歩しているのを見かけた。これは誰かが飼育しているのが散歩に出たのか、それとも野生のニワトリなのか?いずれにせよ、鳩ならともかく線路わきをニワトリに闊歩されたのははこれが初めてだ。
もっともこの線はまだこの程度で済んでいるが、G 駅から G.N の方に曲がらずに南へ下る線はさらにグレードが下がる。人家はさらにまばらで、駅はますますショボく、それに反比例して通りぬける森や野原は立派になる。昼なお暗き原生林的な部分さえある。下手をしたらそれこそデルス・ウザーラの助けを借りなければ家に帰れなくなりそうだ。もし殺されでもしたら10年くらいは発見されないだろう。それでもこの路線だって南の方で細々と東側金持ち州の K 駅と繋がってはいるのだ(上図参照)。車両にもともと東州で市電として走っているのを引っ張り出してきた軽いモデルが使われている。その軽装備で原生林の中を通るから夜どころか昼でも怖い。
どうもフランクフルトより南では(北の方はそんなことはない)ライン川の西側は東側の「日陰者」になってしまうようだ。とにかく差がありすぎる。何というか、古くなって時代にそぐわなくなってはいるが、一応まだ走ることは走るという電車が最後の御奉公をしている感じなのだ。どうせ本数もないからその程度のモデルで勤まるだろうというわけか。それで思い出したが、これも以前直接路線に乗っていたらいきなり「技術上の問題で時速50km以上のスピードが出せなくなりました」と車内アナウンスが流れたことがあった。これじゃイルカの水中速度と同じではないか。もっともその西側州も北を走る路線では上述のピカピカ電車も使われていて Lメイン駅でも時々見かける。ボロボロで赤さびだらけのLメイン駅の構内では完全に浮いていてほとんど掃きだめの鶴である。『189.恐怖のメインステーション』で到着するはずの電車に無視された話をしたが、そのときの電車もこのピカピカ電車だった。こんなバッチい駅に止まって汚れるのが嫌だったのかもしれない。その次にはピカピカと交互にダサい方のドイツ鉄道全国版が来るはずだったが、これが突然削除されたのもそこで書いた通りだ。ピカピカなら無視はされても(しないで欲しい)電車そのものは来るが、ダサ電の方は存在それ自体が削除されるという、まあ微妙にヒエラルキーの差を垣間見るようで面白いと言えば面白い。全然面白くないが。
ドイツ鉄道全国版のダサいモデル。止まっている場所は G 駅。
https://www.bahnbilder.de/1200/425-109-s-bahn-rhein-neckar-steht-1027872.jpgから

それより軽い市電モデルも走る。これで原生林横断は無理だ。
https://www.schwarzwaelder-bote.de/media.media.7dd5fe0a-06e7-4b36-8fdc-bbdcfad47536.original1920.jpgから

しかし、昼なお暗き森やニワトリくらいで驚いてはいけない。ある時その孫悟空の天竺旅行から家に帰ってきたばかりのところで、「G 市で殺人罪で服役中の無期懲役の受刑者が逃亡しました」というニュースが流れた。帰ったところでいきなりこれだ。しかもその服役囚はすでに一日前に逃げている、ということはその日私が G にいる時、そこら辺を無期刑の殺人犯が歩いていたという事なのか。そもそも G なんて町は「東京都品川区東五反田」と同じくらいローカルで、本来とても全国ニュースで名前が出るような町ではない。のけぞったところにさらにダメ押し的に、脱走囚の住んでいる(「服役している」と言え)刑務所は上述の B 市にあり、たまたまその日に(もちろん監視付きで)G に出ていたとき逃亡したと伝えて来た。足につけられていた電子監視装置が G 市で見つかった。この人は2003年に一度人を殺して5年の刑を受け、刑期を務めあげて出所しているが、その後また殺人を犯して2012年からB市の刑務所にいたそうだ。前回の殺人は Totschlag だったが、今回の罪状は Totschlag でなく Mord で(『13.二種の殺人罪』参照)終身刑を受けていた。殺人のバージョンがアップしている。今回はベルトで絞殺した遺体を Lauterbourg に遺棄していたという。G、 B とまさに寄りによって人が乗る路線上の駅名に加えて以前ネタにした Lauterbourg まで登場し、しかも「期間を限定して」私が使っている路線の、まさにその限定時間内に殺人犯が逃げてニュースになる、これはいったい何の因果なのか。あの3羽のニワトリは何かの前兆だったのか。
その服役囚がわざわざ G 市に来て何をしていたのかというと、私は知らなかったが G には大きな景色のいい池がありそこを散歩させられていたという。家族とも面会していたのだそうだ。外の日常生活からあまりにも乖離して現実世界との接点を失ってしまわないよう終身刑であっても服役囚は時々外に出して外界と接触させるのが規則だとのことだが、そういう処置自体には私も賛成である。事実この脱獄囚はそれまでにも何度も何度もそうやって外の空気を吸わせてもらい、何の問題を起こすこともなくまた刑務所に戻ってきていた。もちろん監視がいたから逃げられなかったのだろうが。それがなぜ G に来た時 に限って逃げ出したのかわからない。ひょっとしたら以前から機会は狙っていたのかもしれない。しかしそれでも私は服役囚から外界との接触を完全に断つのには反対である。ニュースを見たときはさすがにビビったが、怖いとはあまり思わなかった。「あの辺なら隠れるところはさぞたくさんあるだろうなあ」と妙な納得をしてしまったくらいである。警察署が声明を出して「この人を見かけたら絶対に自分では話しかけずに最寄りの交番に報せてください」といういつもの指示にさらに続けて、「非常に危険な人物ではありますが、逃亡中に新たに人を襲ったり犯罪を犯したりする可能性は低いです。今回の逃亡の目的はできるだけ長く自由でいるということですから、自分の居場所を特定されるような行動はしないと思われます」と言っていた。私もそう思う。せっかく出て来たのにわざわざ目立つようなことはしないだろう、向こうから私を避けるだろうと思うのである。
それに脱獄をしてもそのせいで刑期が伸びるわけではない。脱獄そのものは罰則にはならないのだ。ただ、逃亡していた日数が加算されるだけ、例えば一週間刑務所の外にいたら、満期がきた時点でさらにあと一週間いさせられるだけだ。脱獄中に犯罪を犯したりしたらそうはいかない。ボーナスがたっぷり加算される。やはり脱獄中はできるだけ人目を避けて大人しくしているのが普通の神経だ。
普段の路線では住んでいる町から Gに行くのにまずライン川をわたって Lメイン駅を通る。この Lメイン駅の恐怖ぶりも今まで散々書いたとおりである(『189.恐怖のメインステーション』、『28.私のせいじゃありません』参照)が、そこを通過してライン川の西側を南に下ると G につく。この路線がまた何かと悶着の起こる路線で、G までは正式には40分くらいしかかからないはずだが、その時間内についたことがない。15分遅れくらいがデフォ、一時間遅れもザラ、最高記録は6時間の遅延である。本来40分の距離でそんなことができるわけがないだろうと思われるだろうが、それができたのだ。私のところの町の駅構内で大送電線がブチ切れ、周り一帯の電車の運行が全てストップしたのである。あらゆる電車が出るも入るもできない。事故の原因がわからないから修理も大幅に手間取り、私など一度家に帰ってまた出てきたら、何時間か前に私が座っていた電車がまだ同じホームにいた。結局その電車もそのホームのシグナルが使えないとかで車庫に戻され、別のホームから別の電車が出ることになった。そのまた電車も路線の途中で突然ストップし、私たちは唐突に代行バスに乗せられた。まるで悟空の大冒険だ。このG からさらに先に進むとフランスに行けることは『59.フランス訪問記』で書いた通りであるが、出だしから電車がストップしたらフランスもク〇もない。 まず駅を出ろ。
とにかくこの路線はLメイン駅ばかりでなく、そもそも路線全体が鬼門である。それで今回は路線が繋がるまでの間別の行き方をとることにした。
代行路線では最初にライン川を渡らずに東側を南に下り、じゅうぶん南まで来た地点で別の電車に乗り換えライン川を渡って G に行く。乗換駅は G.N 駅と言い、電車の連結点である以外は何の取り柄もない不愛想な駅だ。それまで乗って来た路線は先に進んで K という大きな駅まで行く。私の家から直接 G まで行くのとこの G.N 駅まで行くのとでは距離がほぼ同じ、つまり私のとった代行路線では G.N 駅からGまでの走行分だけ長くかかるということである。この乗り換え路線は G.N が始発ではなく、B という駅から来ている。その B と私の家の駅とはさらに別の路線で直接つながっていて、私んちから乗るとBを通って最終的にはやっぱり K に着く。図に書くとこんな感じになる。

ライン川は州境を成していて、東側、うちと G.N、 B 、K 駅は同じ州、図には出ていないが恐怖の Lメイン駅と目的地 G 駅はラインの西側にあって別の州だ。今までも薄々感じてはいたが、今回ラインの東側と西側では鉄道事情にエラい差があることを改めて実感した。東側州はベンツや SAP を擁する金持ち州、西側は工業よりワインなどの農作物で持っている、こう言っちゃナンだが割と貧乏な州である。G.N までいく路線も管理部が東側州にあるからか電車もオサレでモダンなスタイル、内部もそれに応じてピカピカだ。しかも信じられないことに遅滞も5分以内。走っていると隣を時々 ICE などが抜いていく。駅も沿線の町も大きなものが多い。とにかくいろいろにぎやかというか華やいでいるのだ。
お金持ち州の管理するピカピカ路線の車両。
https://images.tagesschau.de/image/e05d72a5-e598-4165-ba91-5f270a0d5280/AAABibuxrKw/AAABibBxqrQ/16x9-1280/swr-auch-die-landeseigene-verkehrsgesellschaft-sweg-wird-von-den-streiks-betroffen-sein-100.jpgから

それがG.Nで乗り換えて G へいく電車に乗ると一変する。G 行き路線もライン川を越えるまでは東側金持ち州を走っているはずだが、主な走行範囲が西側貧乏州だからか、ドイツ鉄道が直接管理しているためか、どうもないがしろにされている感じで車両のモデルも古くてダサく、乗っていて全然楽しくない。私の家から G までの直接路線のほうもこの車両だが、その時は比べるものがないからこんなものかと思っていた。しかし今回 G.N までの路線とG.Nからの路線の差を目の当たりにしてみると、その落差には驚愕せざるを得ない。しかも一時間に一本と言うローカルぶりだ。線路はその路線専用なんだし、そんなに運行時間が開いていれば前の便が引っかかったり他同じ線路を使っている他の路線の便がポイント故障を起こしたりしてスケジュールを滅茶滅茶にされる危険性がないわけだから、すんなり運行できるかと思いきや、平気で遅れる。今時単線だからだ。途中の Ph という駅でのんびり対向車が通過するのを待たなければいけない。直接路線も周りの景色などはローカル色満載だったが、いくらなんでもさすがに複線ではあった。G.N から G では単線と言うだけでなく周りの景色がさらに凄い。もちろん大きな町などはなく、そもそも人家そのものがまばらで、駅も圧倒的にショボい。こんなところで終電を逃したらどうなるんだろう。絶対夜はこの路線に乗りたくない。
いちど途中の駅の線路わきを3羽のニワトリが闊歩しているのを見かけた。これは誰かが飼育しているのが散歩に出たのか、それとも野生のニワトリなのか?いずれにせよ、鳩ならともかく線路わきをニワトリに闊歩されたのははこれが初めてだ。
もっともこの線はまだこの程度で済んでいるが、G 駅から G.N の方に曲がらずに南へ下る線はさらにグレードが下がる。人家はさらにまばらで、駅はますますショボく、それに反比例して通りぬける森や野原は立派になる。昼なお暗き原生林的な部分さえある。下手をしたらそれこそデルス・ウザーラの助けを借りなければ家に帰れなくなりそうだ。もし殺されでもしたら10年くらいは発見されないだろう。それでもこの路線だって南の方で細々と東側金持ち州の K 駅と繋がってはいるのだ(上図参照)。車両にもともと東州で市電として走っているのを引っ張り出してきた軽いモデルが使われている。その軽装備で原生林の中を通るから夜どころか昼でも怖い。
どうもフランクフルトより南では(北の方はそんなことはない)ライン川の西側は東側の「日陰者」になってしまうようだ。とにかく差がありすぎる。何というか、古くなって時代にそぐわなくなってはいるが、一応まだ走ることは走るという電車が最後の御奉公をしている感じなのだ。どうせ本数もないからその程度のモデルで勤まるだろうというわけか。それで思い出したが、これも以前直接路線に乗っていたらいきなり「技術上の問題で時速50km以上のスピードが出せなくなりました」と車内アナウンスが流れたことがあった。これじゃイルカの水中速度と同じではないか。もっともその西側州も北を走る路線では上述のピカピカ電車も使われていて Lメイン駅でも時々見かける。ボロボロで赤さびだらけのLメイン駅の構内では完全に浮いていてほとんど掃きだめの鶴である。『189.恐怖のメインステーション』で到着するはずの電車に無視された話をしたが、そのときの電車もこのピカピカ電車だった。こんなバッチい駅に止まって汚れるのが嫌だったのかもしれない。その次にはピカピカと交互にダサい方のドイツ鉄道全国版が来るはずだったが、これが突然削除されたのもそこで書いた通りだ。ピカピカなら無視はされても(しないで欲しい)電車そのものは来るが、ダサ電の方は存在それ自体が削除されるという、まあ微妙にヒエラルキーの差を垣間見るようで面白いと言えば面白い。全然面白くないが。
ドイツ鉄道全国版のダサいモデル。止まっている場所は G 駅。
https://www.bahnbilder.de/1200/425-109-s-bahn-rhein-neckar-steht-1027872.jpgから

それより軽い市電モデルも走る。これで原生林横断は無理だ。
https://www.schwarzwaelder-bote.de/media.media.7dd5fe0a-06e7-4b36-8fdc-bbdcfad47536.original1920.jpgから

しかし、昼なお暗き森やニワトリくらいで驚いてはいけない。ある時その孫悟空の天竺旅行から家に帰ってきたばかりのところで、「G 市で殺人罪で服役中の無期懲役の受刑者が逃亡しました」というニュースが流れた。帰ったところでいきなりこれだ。しかもその服役囚はすでに一日前に逃げている、ということはその日私が G にいる時、そこら辺を無期刑の殺人犯が歩いていたという事なのか。そもそも G なんて町は「東京都品川区東五反田」と同じくらいローカルで、本来とても全国ニュースで名前が出るような町ではない。のけぞったところにさらにダメ押し的に、脱走囚の住んでいる(「服役している」と言え)刑務所は上述の B 市にあり、たまたまその日に(もちろん監視付きで)G に出ていたとき逃亡したと伝えて来た。足につけられていた電子監視装置が G 市で見つかった。この人は2003年に一度人を殺して5年の刑を受け、刑期を務めあげて出所しているが、その後また殺人を犯して2012年からB市の刑務所にいたそうだ。前回の殺人は Totschlag だったが、今回の罪状は Totschlag でなく Mord で(『13.二種の殺人罪』参照)終身刑を受けていた。殺人のバージョンがアップしている。今回はベルトで絞殺した遺体を Lauterbourg に遺棄していたという。G、 B とまさに寄りによって人が乗る路線上の駅名に加えて以前ネタにした Lauterbourg まで登場し、しかも「期間を限定して」私が使っている路線の、まさにその限定時間内に殺人犯が逃げてニュースになる、これはいったい何の因果なのか。あの3羽のニワトリは何かの前兆だったのか。
その服役囚がわざわざ G 市に来て何をしていたのかというと、私は知らなかったが G には大きな景色のいい池がありそこを散歩させられていたという。家族とも面会していたのだそうだ。外の日常生活からあまりにも乖離して現実世界との接点を失ってしまわないよう終身刑であっても服役囚は時々外に出して外界と接触させるのが規則だとのことだが、そういう処置自体には私も賛成である。事実この脱獄囚はそれまでにも何度も何度もそうやって外の空気を吸わせてもらい、何の問題を起こすこともなくまた刑務所に戻ってきていた。もちろん監視がいたから逃げられなかったのだろうが。それがなぜ G に来た時 に限って逃げ出したのかわからない。ひょっとしたら以前から機会は狙っていたのかもしれない。しかしそれでも私は服役囚から外界との接触を完全に断つのには反対である。ニュースを見たときはさすがにビビったが、怖いとはあまり思わなかった。「あの辺なら隠れるところはさぞたくさんあるだろうなあ」と妙な納得をしてしまったくらいである。警察署が声明を出して「この人を見かけたら絶対に自分では話しかけずに最寄りの交番に報せてください」といういつもの指示にさらに続けて、「非常に危険な人物ではありますが、逃亡中に新たに人を襲ったり犯罪を犯したりする可能性は低いです。今回の逃亡の目的はできるだけ長く自由でいるということですから、自分の居場所を特定されるような行動はしないと思われます」と言っていた。私もそう思う。せっかく出て来たのにわざわざ目立つようなことはしないだろう、向こうから私を避けるだろうと思うのである。
それに脱獄をしてもそのせいで刑期が伸びるわけではない。脱獄そのものは罰則にはならないのだ。ただ、逃亡していた日数が加算されるだけ、例えば一週間刑務所の外にいたら、満期がきた時点でさらにあと一週間いさせられるだけだ。脱獄中に犯罪を犯したりしたらそうはいかない。ボーナスがたっぷり加算される。やはり脱獄中はできるだけ人目を避けて大人しくしているのが普通の神経だ。
さて、逃亡から一週間以上たつがまだ犯人は捕まらない。ひょっとしたらフランスに逃げたのかもしれない。