2018年のことである。ドイツのさるTVで「この国で最も醜い町はどこか」という視聴者アンケートを行った。そのとき大変な数の他の候補地を引き離しダントツの一位に選ばれたのが何を隠そう隣町の某LU市である。もっともこの結果には誰も驚く者はいなかった。同市の醜さはすでにそれ以前からドイツ中に知れわたっていたからである。アンケート結果の発表のシーンが Youtube ビデオでも見られるが、そのコメント欄にはLU市に住んでいる高校生とやらが「以前英語の授業で観光ビデオを製作することになって、先生にLU市で一番綺麗な場所を探して撮影しろと言われたんだけど、無理だろそんなこと」と書き込み、それに答えてやはり同市の別の高校生が「こっちでもそういう授業をやったことあるよ。そしたらクラスメートの一人が学校のトイレを撮影しやがった」と応じていた。また複数の人が「LU市で一番美しい場所は町はずれにあるライン川の橋にたって向こう側の隣町M市を望む光景」と言っている。つまりLU市から目を背けろというわけだ。上述のTV番組では間違えてまさにその反対側、M市の写真がLU市として紹介されてしまっていたが、それに対して誰かが「LU市をモロに見せるのは18禁だからだな」とコメントするなどもう皆言いたい放題である。この調子だとLU市の住民の相当数がここに投票したに違いない。郷土愛というものはないのか。とにかくこの市は醜い。
ツアーについての市の公式サイトはこちら。
市のそのヤケクソぶりはもちろんドイツのメディアでも報道され、「悲しみよこんにちは」ならぬ「悲しみへこんにちは」などと揶揄されていた。
またわざわざ来たくはない人のためアプリによるデジタルツアーも用意されているそうだが、これだとやはりその醜さが完全には伝わらないのではないだろうか。写真もビデオも対象物が被写体となった時点でほとんど自動的にある種の美が生まれてしまうからである。特にプロの写真家が捕ったりすると芸術になる虞がある。現にそういう人が撮った廃墟の写真など怪しいほどの映像美があるではないか。それではいけない。「絵にも描けない美しさ」と同時に「絵にも描けない醜さ」もあるのだ。この市のボロさはやはり実際に訪れて体験したほうがいい。いやそんなものは体験しないに越したことはないが。
私はそのガイドツアーに参加したことがないので(誰が参加するか)どこを見学させられるのか知らないが、こう見えても私だって隣町の住人、いくつかお薦めスポットがある。その筆頭がLU市のメインステーションだ。『28.私のせいじゃありません』で一度出したが、この駅は鬼門というばかりでなく、外見もとにかく醜い。普通いやしくも人の住んでいる町のメインステーションといえば少しは華やいだ雰囲気が漂っているものではないのか。華やぐとまでいかなくても電車が来るたびに人が乗り降りし、売店などもあり、ある程度にぎやかなものだ。LU駅にはそういう要素が全く感じられない。どう見ても廃墟であり、下手をすると外から来た人はこれが駅であることを見逃し、素通りしかねないボロさだ。なぜそんなにボロいのかというと、この駅では乗客があまり乗り降りしないからである。乗り換えはする。また先の記事でも書いたように、突然電車がこの駅で止まって進まなくなり、乗客がホームに放り出されることはある。が、駅から外へ出たり、ここの駅から電車に乗ってくる人が少なすぎるのだ。だから普通なら力を入れて綺麗な建物になっている駅の正面玄関というものがない。人が乗り降りしないのだから売店の類もほとんどない。常に薄暗く人がいない。つまりほとんど廃墟なのだ。

では少なくとも電車が通過したり止まったりするホームのある駅の構内は雰囲気が明るいかと言うとこれが入口以上に陰気だ。 駅のホームには色々な方向から電車が入ってきていろいろな方向に出ていく。しかし少なくとも駅の構内では線路は並行に走っているのが普通だ。バラけるのは駅を出てからである。ところがLU駅では構内ですでに線路の方向がバラバラなのである。だからホームがきちんと皆同じ大きさの四角形になっていない。大きさや長さに大小があるだけでなく、幅も広かったり狭かったりしている上に形も台形というか三角形というか五角形というかよくわからない形状である。よくわからないからきれいに敷石を引くこともできず、ショボいアスファルトで表面が覆われている。安物のアスファルトだからすでに表面がザラザラのボコボコである。もちろんひび割れて間から雑草が茂っている。ついでにホームが広くなっているところには木が生えている。さすがにこの木は勝手に生えてきたのではなく(ジャングルかよ)人が植えたのだが、手入れされてないからまるで駅のそこここに藪が生い茂っているようだ。木の根元にはビンやカン、食べ物の包み紙が捨てられている。
ホームのど真ん中にやたらとショボい草や木が生えている。https://abload.de/image.php?img=img_2807joz8.jpgから

さらにホームのど真ん中にやたらとデカイ柱が立っている。これは駅の建物とは関係ない柱で、見上げると頭の上をアウトバーンが通っている、そのアウトバーンの柱が駅の構内にドーンと鎮座しているのだ。思い出してほしい。日本でも高速道路の真下がどうなっているか。妙に埃っぽくて薄暗くて非常に陰気だろう。ガードレールなんかも薄汚れている。LU駅はまさにそういう雰囲気なのだ。中央部、つまりかろうじて人の行き来があるホームの真ん中ですでにそういう状態だから、ホームの端などはすごいことになっている。アスファルトの表面にはコケが生え、もちろん隙間と言う隙間には草が生い茂る。雨でも降れば堂々たる水たまりができる。これで石灯籠でも立てれば完全にワビ・サビの世界、日本庭園だ。足りないのはカエルの鳴き声だけだ(鳥はすでに鳴いている)。
駅のど真ん中に鎮座するのは駅とは関係ないアウトバーンの柱。https://www.probahn-rhein-neckar.de/position/40-jahre-hbf-ludwigshafenから

ここに石灯籠でも立てなさい。https://abload.de/image.php?img=img_28583pzc.jpgから
ホームには屋根がある。しかしこれがまた陰気さにさらに拍車をかけている。ペンキは剥げ、そこから赤茶色の錆が覗いている。その上に無頓着にまたペンキを塗るから再び剥げて表面に凹凸ができしかも変な斑になっている。その上そんな努力も空しく立派に雨漏りがする。雨漏りがしないのはアウトバーンの真下のみ。つまりアウトバーンが屋根代わりになっているのだ。 まだある。そのバラバラホームの3番線から10番線までは地階を走り、1番線と2番線はそれと交差する形で上を通っているのだが、その上の路線のホームがまた凄い。壁も足元も薄汚れ、ホームの端がコケ寺状態なのは下の線路と同じだが、ここは上にあるだけに頭上のアウトバーンとも近く、車が通過する音がゴーゴー聞こえてくる。
アウトバーンが屋根代わり。https://www.probahn-rhein-neckar.de/position/40-jahre-hbf-ludwigshafenから

柵はサビと埃まみれ。上を通るのはアウトバーン。https://abload.de/image.php?から

つまり一言でいうとLU駅は駅の態をなしていないのである。もっとも多少駅の作りが雑でも建物がボロくても人通りがあれば駅のメンツは保てる。世界にはこれ以上のボロ駅などいくらもあるが、大荷物を抱えた乗客が溢れ、家畜まで行き来し、来る電車が住民の足として頼りにされている雰囲気が伝わってきて微笑ましいくらいだ。LU駅にはその微笑ましさが全くない。頼りにされていないどころか避けられているからだ。 また上で「どう見ても廃墟」「ほとんど廃墟」と書いて「ほとんど」をつけたのはダテではない。ここが本当に廃墟だったら退廃の美というか滅びの美学というかある種の美しさが漂うものだが、LU駅は細々とではあるが生意気にICEも止まるなど変に利用はされてしまっているため、その退廃の美を持つことができない。廃墟にさえなれていないのだ。本当に救いようがない。
廃墟にさえなれないLUメインステーション。ウィキペディアから。https://rhein-neckar-wiki.de/Ludwigshafen_am_Rhein#/media/Datei:Ludwigshafen_Hbf_02.jpg

上記のように私が夕方遅く放り出されたのはこういう駅であるが、その程度の事故は日常茶飯事。さらにその後こんなこともあった。前の駅で電車に乗ると突然車内に「この電車はLUまでしか行きません」というアナウンスが入る。車内表示にもそうはっきり表示が出ている。こういう突然の予定変更はよくあるのでまたかと思い、他の乗客と共に魔のLU駅で下りる。せめて代理の便が用意されていないのかと皆で陰気なホーム上をウロウロ歩いていたら、乗ってきた電車の後部から運転手が顔を出して(この便は普通LU駅で切り離されて前部だけが先に進むので後部にも運転手がいる)、「お客さん方、いったい何処へ行くんです?」と不思議そうに聞く。私たちが「今日は電車全体がLUで終わりですと言われました」と答えると「んなことありませんよ。前部はいつも通り先に行きますよ」というではないか。私たちが大急ぎで今降りた車両に戻ると、相変わらず「この便はLUまでです」と表示したまま電車はちゃっかり出発した。乗客をナメとんのかおんどりゃ?それともドイツ鉄道は何か乗客に恨みでもあるのか? しかしこれしきの嫌がらせで怒っていたらとてもドイツ鉄道とは付き合えない。こういうこともあった。私は他の乗客とともに上の2番線で電車を待っていた。珍しくわずか3分遅れで私たちの電車がやってきたが、なぜか一本向こうの線路を走り、止まるはずのLU駅には止まらず通過してしまったのである。ホームで待っていた私たちは一瞬何が起こったのかわからなかった。やっと数秒後、止まるはずの電車に無視されたことに気付くともう阿鼻叫喚である。隣に立っていた男性はその電車で来るガールフレンドを出迎えようとして来ていたそうだが、駅が飛ばされたのですぐ車内のガールフレンドに電話した。「ちょっとなにこれ?!なんで通り過ぎるのよ!」という叫び声が私のところまで聞こえてきた。
おまけに10分後に来るはずの次の便は突然削除され、私たちはホームを降りて全く別の路線で目的地に向かうしかなかった。その間アナウンスやお知らせの類は全くナシである。そこまでされてもそれまでベンチに悠々と座っていた別の男性が全くあわてず騒がず「多分誰かがポイントの切り替えを間違ったか、運転が本日初日だったんでしょう」と静かにコメントしていた。さすがドイツ人は悟っている。日本人はとてもここまで悟りを開くことはできない。
その番組のビデオの一つ。Youtubeを探すと何本もみつかる。言いたい放題のコメントがまた腹筋崩壊。https://www.youtube.com/watch?v=1CN_klSA3go
ではそこまで言われた市が怒るなり反省するなりして、美化に務めようとしたか。逆だった。「ドイツで一番醜い町観光ツアー」をぶち上げたのである。1960年からここに住んでいるというベテランの観光ガイド(本職は彫刻家だそうだ)が名乗りをあげ、お薦めの醜いスポットを案内してくれることになった。一回200ユーロで市の醜さを満喫できるそうだから、興味のある人は市に問い合わせて見るといい。もうヤケクソである。
ツアーについての市の公式サイトはこちら。
市のそのヤケクソぶりはもちろんドイツのメディアでも報道され、「悲しみよこんにちは」ならぬ「悲しみへこんにちは」などと揶揄されていた。
またわざわざ来たくはない人のためアプリによるデジタルツアーも用意されているそうだが、これだとやはりその醜さが完全には伝わらないのではないだろうか。写真もビデオも対象物が被写体となった時点でほとんど自動的にある種の美が生まれてしまうからである。特にプロの写真家が捕ったりすると芸術になる虞がある。現にそういう人が撮った廃墟の写真など怪しいほどの映像美があるではないか。それではいけない。「絵にも描けない美しさ」と同時に「絵にも描けない醜さ」もあるのだ。この市のボロさはやはり実際に訪れて体験したほうがいい。いやそんなものは体験しないに越したことはないが。
私はそのガイドツアーに参加したことがないので(誰が参加するか)どこを見学させられるのか知らないが、こう見えても私だって隣町の住人、いくつかお薦めスポットがある。その筆頭がLU市のメインステーションだ。『28.私のせいじゃありません』で一度出したが、この駅は鬼門というばかりでなく、外見もとにかく醜い。普通いやしくも人の住んでいる町のメインステーションといえば少しは華やいだ雰囲気が漂っているものではないのか。華やぐとまでいかなくても電車が来るたびに人が乗り降りし、売店などもあり、ある程度にぎやかなものだ。LU駅にはそういう要素が全く感じられない。どう見ても廃墟であり、下手をすると外から来た人はこれが駅であることを見逃し、素通りしかねないボロさだ。なぜそんなにボロいのかというと、この駅では乗客があまり乗り降りしないからである。乗り換えはする。また先の記事でも書いたように、突然電車がこの駅で止まって進まなくなり、乗客がホームに放り出されることはある。が、駅から外へ出たり、ここの駅から電車に乗ってくる人が少なすぎるのだ。だから普通なら力を入れて綺麗な建物になっている駅の正面玄関というものがない。人が乗り降りしないのだから売店の類もほとんどない。常に薄暗く人がいない。つまりほとんど廃墟なのだ。
これが本当に市のメインステーションの入口なのか?!上を通るのは駅の建物とは無関係なアウトバーン(下記参照)。https://de-academic.com/dic.nsf/dewiki/885316から
昼なお暗い、ホームを結ぶLU駅地下道。https://www.probahn-rhein-neckar.de/position/40-jahre-hbf-ludwigshafenから
では少なくとも電車が通過したり止まったりするホームのある駅の構内は雰囲気が明るいかと言うとこれが入口以上に陰気だ。
ホームのど真ん中にやたらとショボい草や木が生えている。https://abload.de/image.php?img=img_2807joz8.jpgから

さらにホームのど真ん中にやたらとデカイ柱が立っている。これは駅の建物とは関係ない柱で、見上げると頭の上をアウトバーンが通っている、そのアウトバーンの柱が駅の構内にドーンと鎮座しているのだ。思い出してほしい。日本でも高速道路の真下がどうなっているか。妙に埃っぽくて薄暗くて非常に陰気だろう。ガードレールなんかも薄汚れている。LU駅はまさにそういう雰囲気なのだ。中央部、つまりかろうじて人の行き来があるホームの真ん中ですでにそういう状態だから、ホームの端などはすごいことになっている。アスファルトの表面にはコケが生え、もちろん隙間と言う隙間には草が生い茂る。雨でも降れば堂々たる水たまりができる。これで石灯籠でも立てれば完全にワビ・サビの世界、日本庭園だ。足りないのはカエルの鳴き声だけだ(鳥はすでに鳴いている)。
駅のど真ん中に鎮座するのは駅とは関係ないアウトバーンの柱。https://www.probahn-rhein-neckar.de/position/40-jahre-hbf-ludwigshafenから

ここに石灯籠でも立てなさい。https://abload.de/image.php?img=img_28583pzc.jpgから

ホームには屋根がある。しかしこれがまた陰気さにさらに拍車をかけている。ペンキは剥げ、そこから赤茶色の錆が覗いている。その上に無頓着にまたペンキを塗るから再び剥げて表面に凹凸ができしかも変な斑になっている。その上そんな努力も空しく立派に雨漏りがする。雨漏りがしないのはアウトバーンの真下のみ。つまりアウトバーンが屋根代わりになっているのだ。
アウトバーンが屋根代わり。https://www.probahn-rhein-neckar.de/position/40-jahre-hbf-ludwigshafenから


つまり一言でいうとLU駅は駅の態をなしていないのである。もっとも多少駅の作りが雑でも建物がボロくても人通りがあれば駅のメンツは保てる。世界にはこれ以上のボロ駅などいくらもあるが、大荷物を抱えた乗客が溢れ、家畜まで行き来し、来る電車が住民の足として頼りにされている雰囲気が伝わってきて微笑ましいくらいだ。LU駅にはその微笑ましさが全くない。頼りにされていないどころか避けられているからだ。
廃墟にさえなれないLUメインステーション。ウィキペディアから。https://rhein-neckar-wiki.de/Ludwigshafen_am_Rhein#/media/Datei:Ludwigshafen_Hbf_02.jpg

上記のように私が夕方遅く放り出されたのはこういう駅であるが、その程度の事故は日常茶飯事。さらにその後こんなこともあった。前の駅で電車に乗ると突然車内に「この電車はLUまでしか行きません」というアナウンスが入る。車内表示にもそうはっきり表示が出ている。こういう突然の予定変更はよくあるのでまたかと思い、他の乗客と共に魔のLU駅で下りる。せめて代理の便が用意されていないのかと皆で陰気なホーム上をウロウロ歩いていたら、乗ってきた電車の後部から運転手が顔を出して(この便は普通LU駅で切り離されて前部だけが先に進むので後部にも運転手がいる)、「お客さん方、いったい何処へ行くんです?」と不思議そうに聞く。私たちが「今日は電車全体がLUで終わりですと言われました」と答えると「んなことありませんよ。前部はいつも通り先に行きますよ」というではないか。私たちが大急ぎで今降りた車両に戻ると、相変わらず「この便はLUまでです」と表示したまま電車はちゃっかり出発した。乗客をナメとんのかおんどりゃ?それともドイツ鉄道は何か乗客に恨みでもあるのか?
おまけに10分後に来るはずの次の便は突然削除され、私たちはホームを降りて全く別の路線で目的地に向かうしかなかった。その間アナウンスやお知らせの類は全くナシである。そこまでされてもそれまでベンチに悠々と座っていた別の男性が全くあわてず騒がず「多分誰かがポイントの切り替えを間違ったか、運転が本日初日だったんでしょう」と静かにコメントしていた。さすがドイツ人は悟っている。日本人はとてもここまで悟りを開くことはできない。
これがLUメインステーションだが、駅も駅なら町も町、この町にしてこの駅ありで、LU市はどこもだいたいこんな感じである。「悲しみ」(上記参照)どころではない、「絶望よこんにちは」になりそうだが勇気のある人は一度見学してみるといい。スリル満点、下手なお化け屋敷より楽しめること請け合いだ。やたらとこぎれいな城、その周りで外国人の観光客からできるだけ金を搾り取ろうと手ぐすね引いているレストランや土産物屋の類が全くない、お薦めの観光スポットである(薦めないが)。