「閑話休題」ならぬ「休題閑話」では人食いアヒルの子がネットなどで見つけた面白い記事を勝手に翻訳して紹介しています。下の記事はうちでとっている南ドイツ新聞に土曜日ごとに挟まってくる小冊子に『悪のネットの中で』というタイトルで2016年12月16日にのったものですが、長いので6回に分けます。

前回の続きです。

 Arvatoは大会社である。他の企業が抱え込んでいる仕事を引き受ける会社だ:コールセンター、マイレージサービス、発送センターなど様々な業務を担当する。40カ国以上で約70000人がこの外部委託サービス会社で働いている。Arvatoはメディアの巨大企業ベルテルスマンの大黒柱だ。ベルテルスマンの従業員の半分以上がこのArvatoに雇われた人たちだ。会社のウェブサイトには『何をして差し上げましょうか?』というモットー。
 フェイスブックの削除センターがベルリンにある理由の一つに、まさにドイツ当局からの圧力が次第に強まってきたということがある。ドイツ連邦法相のハイコ・マースがフェイスブックのドイツでの窓口を通じて、ドイツ語の投稿をきちんと検討して問題のあるものは速やかに削除するよう要請。目下ミュンヘンの検察がフェイスブックを民族扇動罪幇助の疑いで調査している。問題ありとされているのは会社が違法な内容をスムースに削除しないことが頻繁だからだ。
 2015年の初夏、Arvatoから派遣された少人数のグループがフェイスブックのヨーロッパ本部に招かれた。双方の企業が共同作業する取り決めができていたからである:この世界最大のソーシャルメディア企業にはそのサイトをきれいにしておくため協力が必要、Arvatoの経営者はそのためのチームをどう養成していったらいいか知っておかねばいけないというわけだ。2015年の秋に業務開始となったが、始めのうちはそういう仕事をやっていることは秘密にされた。
 フェイスブックとArvato間で交わされた契約の期間はどのくらいなのか?作業をさせるに当たって従業員にどのような準備をさせるのか?業務を開始する前にArvatoは「コンテンツ・モデレーション」が与える精神的重圧のリスクを見積もっていたのか?『南ドイツ新聞マガジン』はArvatoに19の質問リストを書面で提出しておいた。Arvatoはただ「依頼主のフェイスブックはArvatoとの共同作業についてジャーナリストの質問には全て回答を差し控えています」と説明するだけである。
 フェイスブック・ドイツも『南ドイツ新聞マガジン』がやはり書面で送った質問に対し、具体性に欠けるか、または「それについてはコメントできません」という回答をよこすだけである。フェイスブック側の説明が当紙がインタビューしたArvato側の現従業員、元従業員の言っていることと食い違っている点もいくつかある。例えばフェイスブックは、従業員は全員業務にかかる前にArvatoのフェイスブックチーム内で「6週間のトレーニング」と「4週間の個々訓練プログラム」が義務付けられているという。だが『南ドイツ新聞マガジン』が聞きだした従業員はほとんどがもっとずっと短い訓練期間しかなかったと報告している。2週間だったそうだ。

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 Arvatoの削除チームは言語ごとに分けられている。廊下では英語で会話をしているが、それ以外ではチームの言語で話す:アラビア語、スペイン語、フランス語、トルコ語、イタリア語、スウェーデン語。それからもちろんドイツ語も。チームはそれぞれの言語地域から投稿された内容を見て回るのだが、中心となる内容は大抵同じようなものだ。

順番待ちのキューから出てくるのはランダムに選ばれた画像です。動物虐待、ハーケンクロイツ、ペニス...

 とても正視できないような画像を処理していくのに、チームによっていろいろ違ったやり方になる:スペイン人はお互いそれらを見せ合う、アラブ人はむしろ引きこもりがち。フランス人は黙々としてコンピューターの前に坐っていることが多い。

最初は私たちも昼休みなどにポルノが多いことなんかに冗談を飛ばしていましたよ。でもそのうち皆気が滅入ってしまいました。

 削除すべきか否か?決めるとすぐに次の課題がスクリーンに現れる。処理した件数(「チケット」と呼ばれる)はスクリーンに表示されてわかるようになっている。

画像はドンドンひどくなっていきました。トレーニングで見たより遥かにひどかった。けれどそれってつまりあなた方が私の故国の新聞で目にするものなんですよね。暴力、メチャクチャにされた死体・・・

部屋から突然誰かが飛び出していくなんてしょっちゅうでした。外に走っていって泣き叫ぶんです。

 従業員が『南ドイツ新聞マガジン』に話してくれたディテールには、残酷すぎて活字にできないようなものがある。以下の描写などすでに十分耐えがたいだろう。

犬が一匹つながれていました。裸の東洋人女性がその犬を焼けた鉄でいじめてたんです。その上犬に煮え湯をかける。そういうのを見るとフェチで性的に興奮するような人たち向けです。

子供のポルノが一番ひどい。こんな小さな子供が、まだ6歳以上にはなってないだろうに、上半身裸でベットに横たわっている。その上に太った男がのしかかってその子を暴行するんです。クローズアップ映像でした。

 このような内容を割り当てられた者は言ってみればドアマンとベルトコンベア作業員を足して2で割ったような仕事をするわけだ:これはフェイスブックのサイトに残ってていい。クリック。これは駄目。クリック。最初FNRPチームの要員は一日およそ1000件のチケットを処理するように言われた。つまりフェイスブックのややこしい規約項目に反するかどうかの判定を千回するのである。この規約項目はいわゆる「協同体スタンダード」を呼ばれるもので、何はサイトで公開してよくて何は削除すべきか定めてある。

そのうち斬首のシーン、テロ、裸の画像などが出てくるようになりました。あとからあとからペニス。数え切れないほどのペニス。繰り返し繰り返しものすごく残酷な映像。どのくらいの数だったかとか、はっきり言えません。その時々で違いますが、まあ少なくとも一時間に1件か2件かは絶対あるな。とにかく毎日何かしら恐ろしい目に会います。

2・3日後に最初の死体を見ました。ものすごい血。もうゾッとしてしまいましたよ。画像はすぐ削除しました。そしたら上司が私のところに来て言ったんです。「そりゃ間違いだよ。この画像はフェイスブックの協同体スタンダートに違反してない。」って。この次はもっときちんと仕事をしなさい、と。

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