「閑話休題」ならぬ「休題閑話」では人食いアヒルの子がネットなどで見つけた面白い記事を勝手に翻訳して紹介しています。下のインタビュー記事は『国が金を出し、私経済が懐に入れる』というタイトルで2016年10月21日の南ドイツ新聞にのったものですが、長いので2回に分けました。
前回の続きです。
南ドイツ新聞:
変革を望んで人は多く動かされるわけですが、変革というのは教授のような自称無政府主義者にとっても本来望むところであるはずですよね。それがトランプのようなポピュリストの利益にもなっていてもやっぱりそうですか?
ノーム・チョムスキー:
変革を望むのは理解できる、問題となるのは人に与えられている選択肢です。
昔からの制度風習はほとんどすべて信望を失ってしまったような気がするんですが - 政府も議会も政党も企業もメディアも、それから教会さえも。
これらは現在では本当に嫌われていますね。
この先どういうことになるんでしょうか?
私には言えません。あのね、私はまだよく覚えているんですが、子供の頃ラジオでヒトラーの演説を聞いたんです。その言葉は理解できませんでしたが、メッセージは伝わりました。こんにち例えばドイツやオーストリアでのアンケートの結果なんか見てみていると、でもまあ、こう言わざるを得ないでしょうねえ:勇気づけられるような感じではないな、と。
現在メディアも右からも左からも攻撃されています。メディアは「体制」に奉仕していてそこから外れる意見は全然言葉にしてくれないと言われてます。教授自身もこれらの批判者のお一人ですが。私たちメディアが一般に言われるようにひどいものなら、どうして私たちはここでこうやって教授とお話しているんですか?
あなた方がひどいとは私は言っていませんよ。間違っていることが多いということです。メディアが視聴者に伝えるニュースを選択するやり方とか。でもそれだからと言って私が毎朝重要な国の内外の新聞を読む妨げにはなりません。
メディアが、使用できる他のソースと比べるとそんなに悪くもないからではないですか?
そうです。読んでいて腹の立つようなこともたくさん書いてありますが、さしあたってはこれよりマシな出発点がありませんからね。私はまず日刊紙を読んでから他のソースにあたります。
教授のような左派の知識人がメディアを批判すると、されたくない側から拍手されたりしますが。右派から自分たちのプロパガンダの正しさを証明してくれる証人として持ち出されると嫌ではありませんか?
どういう風にメディアを批判するかによります。私がメディアを批判するのは例えばコンツェルンを保護するために結んだ条約を自由貿易条約を呼んだりすることです。でもそれでも「私はメディアが大嫌いだ」と言い切るほどではありません。
事実としては、右派と左派は大声で実は同じことを主張している、ということがあります。例えば民主党左派のバーニー・サンダースの信奉者には今はサンダースの党の同僚ヒラリー・クリントンを選ばずにトランプに票を入れようとしている人たちがいますね。
この人たちはクリントンが大嫌いなんですよ。問題はただ、だからクリントンが嫌いなんだというその要素はトランプも持っていて、こちらのほうがさらにひどいということですね。
トランプが勝ったら、世界にとってどういうことになるでしょうか?
私たち全員の生存に関わる二つの問題を見てみましょうか。気候変動と核兵器のことを。気候問題ではトランプは化石燃料に戻るという完全に間違った方向に向かって行進中です。方向転換のタイムリミットまでもうそんなに時間がないのにね。核兵器について言えばこういうことです:無知な上にすぐ感情的になるような誇大妄想狂の人物に地球をふっとばせるような権力を与えてしまっていいのか?
でも選挙戦ではこれらのテーマは二つともほとんど表に出てきませんでしたが。
ええ、メディアが内容そのものはそっちのけでトランプがミスコンテストの優勝者と悶着を起こしたとかそういうことばかりニュースにするからです。本当にこれは読者や視聴者への詐欺行為ですよ。
無政府主義者が世の中をよくするためにできる貢献とはどんなことでしょう?
権威に対してその正当性に疑問を突きつける、また異を唱える、ということです。あらゆる制度機構には正当性がないといけない。それがない制度機構は廃止されるべきです。
そんなにはっきりしていることなら、どうして皆教授のご提案に従いたいと思わないのですか?
誰が従いたくないと言っているんですか?誰もその可能性を与えてくれないんですよ。
革命の革命たる所以は人々が可能性を自分でつかむ、ということにあるのではないですか?
革命はそれをやりますよ、組織されて活動していれば - でも今はもうそうではなくなってしまいました:政治が社会をバラバラにしてしまいましたからね。人々は互いに孤立して生きているし、教会と大学以外は組織というものがほとんどない。意見交換の場がないから政治問題への理解を深められない。時々ボタンを押して候補者に一人票を入れる、それだけ。現在の政治システムではそれ以上することがありません。
その裏には意図的な計画があると?
もちろん。そのためにPR産業が開発されたんです。PR産業は人々の関心が表面的な生活のことにだけ向かうようにしむける。下手にコミットしないで消費だけしていろというわけですね。近代PR産業の創設者の一人、エドワード・バーネイズがズバリ言い切ってますよ:世間の人々ってのは問題だ。彼らは馬鹿で無知だから脇へどいててもらって責任感のある人間になんでも決めてもらうのが彼ら自身にとっても一番いいんだ、と。そのためにPR部門が最も自由な社会にも誕生したんです、つまりアメリカとイギリスにね。これらの社会では前世紀に市民が極めて広い自由を獲得して、権力施行によって人々をコントロールするのが難しくなった。だから人々の意見や行動のほうをコントロールしないといけないというわけです。
そういう陰謀があるとしたら、それに対して教授のような知識人ができることとはどんなことでしょうか?
皆がいろいろな問題点にもっとコミットしてもっとよく理解するように仕向けることができるでしょう。
問題はただ、知識人という集団もまた人々がもう信用していない、ということです。データが増えているのにそれらがそもそもデータとして認めてもらえないことも多い。
本当にそういう人はいます。その原因を理解するためにはアメリカについていくつかはっきりさせておかないといけない。1945年まではアメリカは経済的には世界で最も裕福な国でしたが、知性の点では遥かに劣っていた:学問をやりたかったらヨーロッパに行かなければいけなかったんです。知性ではこの国は後進国というのはいまだにあまり変わっていませんね。
そうお決めになる根拠はどんなことですか?
気候変動のことを考えてみましょう;人口の約40%が「この問題はもう扱う必要がない、だってまもなくキリストが地上に戻ってくるじゃないか」などと信じているようでは難しいでしょう。トランプ現象の大部分はこういうところから発生しているんです。私はたった今中西部のある夫婦についての記事を読んだところですが、さるキリスト教の共同社会で美しい生活を送っていた。庭には小さなチャペルが建ててあった。が、そこで突然そのチャペルで男同士・女同士でまで結婚させるよう、法律で義務付けられてしまった。これらの人々にとっては世界が崩れ落ちたんです - もちろん前近代的な世界ですが、世界は世界ですからね。
そういう後進性は嫌ですか?
それらの人々を責めるつもりはありません。見ていると私の祖父を思い出しますよ。祖父は100年前にアメリカに移住してきましたが、頭の中はまだ17世紀に住んでいました。ウクライナのさる村の生まれですが、アメリカでも超正統派の小さなユダヤ人共同社会の中で生活していて、この国の社会や近代社会とは別のところにいました。だから私にもこういう人たちへの共感がないわけではありません。彼らにだってそういう生活をする権利がある、と思っています。
それでもなお出来ることがあるとしたら?
教育が助けになる。これらの社会でも若い世代は変わりつつあります。
では最後の望みはまだ持っていらっしゃるんですね? 若い世代という。
希望はいつだってありますよ。
元の記事はこちら
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念のため:私はこの新聞社の回し者ではありません。)
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変革を望んで人は多く動かされるわけですが、変革というのは教授のような自称無政府主義者にとっても本来望むところであるはずですよね。それがトランプのようなポピュリストの利益にもなっていてもやっぱりそうですか?
ノーム・チョムスキー:
変革を望むのは理解できる、問題となるのは人に与えられている選択肢です。
昔からの制度風習はほとんどすべて信望を失ってしまったような気がするんですが - 政府も議会も政党も企業もメディアも、それから教会さえも。
これらは現在では本当に嫌われていますね。
この先どういうことになるんでしょうか?
私には言えません。あのね、私はまだよく覚えているんですが、子供の頃ラジオでヒトラーの演説を聞いたんです。その言葉は理解できませんでしたが、メッセージは伝わりました。こんにち例えばドイツやオーストリアでのアンケートの結果なんか見てみていると、でもまあ、こう言わざるを得ないでしょうねえ:勇気づけられるような感じではないな、と。
現在メディアも右からも左からも攻撃されています。メディアは「体制」に奉仕していてそこから外れる意見は全然言葉にしてくれないと言われてます。教授自身もこれらの批判者のお一人ですが。私たちメディアが一般に言われるようにひどいものなら、どうして私たちはここでこうやって教授とお話しているんですか?
あなた方がひどいとは私は言っていませんよ。間違っていることが多いということです。メディアが視聴者に伝えるニュースを選択するやり方とか。でもそれだからと言って私が毎朝重要な国の内外の新聞を読む妨げにはなりません。
メディアが、使用できる他のソースと比べるとそんなに悪くもないからではないですか?
そうです。読んでいて腹の立つようなこともたくさん書いてありますが、さしあたってはこれよりマシな出発点がありませんからね。私はまず日刊紙を読んでから他のソースにあたります。
教授のような左派の知識人がメディアを批判すると、されたくない側から拍手されたりしますが。右派から自分たちのプロパガンダの正しさを証明してくれる証人として持ち出されると嫌ではありませんか?
どういう風にメディアを批判するかによります。私がメディアを批判するのは例えばコンツェルンを保護するために結んだ条約を自由貿易条約を呼んだりすることです。でもそれでも「私はメディアが大嫌いだ」と言い切るほどではありません。
事実としては、右派と左派は大声で実は同じことを主張している、ということがあります。例えば民主党左派のバーニー・サンダースの信奉者には今はサンダースの党の同僚ヒラリー・クリントンを選ばずにトランプに票を入れようとしている人たちがいますね。
この人たちはクリントンが大嫌いなんですよ。問題はただ、だからクリントンが嫌いなんだというその要素はトランプも持っていて、こちらのほうがさらにひどいということですね。
トランプが勝ったら、世界にとってどういうことになるでしょうか?
私たち全員の生存に関わる二つの問題を見てみましょうか。気候変動と核兵器のことを。気候問題ではトランプは化石燃料に戻るという完全に間違った方向に向かって行進中です。方向転換のタイムリミットまでもうそんなに時間がないのにね。核兵器について言えばこういうことです:無知な上にすぐ感情的になるような誇大妄想狂の人物に地球をふっとばせるような権力を与えてしまっていいのか?
でも選挙戦ではこれらのテーマは二つともほとんど表に出てきませんでしたが。
ええ、メディアが内容そのものはそっちのけでトランプがミスコンテストの優勝者と悶着を起こしたとかそういうことばかりニュースにするからです。本当にこれは読者や視聴者への詐欺行為ですよ。
無政府主義者が世の中をよくするためにできる貢献とはどんなことでしょう?
権威に対してその正当性に疑問を突きつける、また異を唱える、ということです。あらゆる制度機構には正当性がないといけない。それがない制度機構は廃止されるべきです。
そんなにはっきりしていることなら、どうして皆教授のご提案に従いたいと思わないのですか?
誰が従いたくないと言っているんですか?誰もその可能性を与えてくれないんですよ。
革命の革命たる所以は人々が可能性を自分でつかむ、ということにあるのではないですか?
革命はそれをやりますよ、組織されて活動していれば - でも今はもうそうではなくなってしまいました:政治が社会をバラバラにしてしまいましたからね。人々は互いに孤立して生きているし、教会と大学以外は組織というものがほとんどない。意見交換の場がないから政治問題への理解を深められない。時々ボタンを押して候補者に一人票を入れる、それだけ。現在の政治システムではそれ以上することがありません。
その裏には意図的な計画があると?
もちろん。そのためにPR産業が開発されたんです。PR産業は人々の関心が表面的な生活のことにだけ向かうようにしむける。下手にコミットしないで消費だけしていろというわけですね。近代PR産業の創設者の一人、エドワード・バーネイズがズバリ言い切ってますよ:世間の人々ってのは問題だ。彼らは馬鹿で無知だから脇へどいててもらって責任感のある人間になんでも決めてもらうのが彼ら自身にとっても一番いいんだ、と。そのためにPR部門が最も自由な社会にも誕生したんです、つまりアメリカとイギリスにね。これらの社会では前世紀に市民が極めて広い自由を獲得して、権力施行によって人々をコントロールするのが難しくなった。だから人々の意見や行動のほうをコントロールしないといけないというわけです。
そういう陰謀があるとしたら、それに対して教授のような知識人ができることとはどんなことでしょうか?
皆がいろいろな問題点にもっとコミットしてもっとよく理解するように仕向けることができるでしょう。
問題はただ、知識人という集団もまた人々がもう信用していない、ということです。データが増えているのにそれらがそもそもデータとして認めてもらえないことも多い。
本当にそういう人はいます。その原因を理解するためにはアメリカについていくつかはっきりさせておかないといけない。1945年まではアメリカは経済的には世界で最も裕福な国でしたが、知性の点では遥かに劣っていた:学問をやりたかったらヨーロッパに行かなければいけなかったんです。知性ではこの国は後進国というのはいまだにあまり変わっていませんね。
そうお決めになる根拠はどんなことですか?
気候変動のことを考えてみましょう;人口の約40%が「この問題はもう扱う必要がない、だってまもなくキリストが地上に戻ってくるじゃないか」などと信じているようでは難しいでしょう。トランプ現象の大部分はこういうところから発生しているんです。私はたった今中西部のある夫婦についての記事を読んだところですが、さるキリスト教の共同社会で美しい生活を送っていた。庭には小さなチャペルが建ててあった。が、そこで突然そのチャペルで男同士・女同士でまで結婚させるよう、法律で義務付けられてしまった。これらの人々にとっては世界が崩れ落ちたんです - もちろん前近代的な世界ですが、世界は世界ですからね。
そういう後進性は嫌ですか?
それらの人々を責めるつもりはありません。見ていると私の祖父を思い出しますよ。祖父は100年前にアメリカに移住してきましたが、頭の中はまだ17世紀に住んでいました。ウクライナのさる村の生まれですが、アメリカでも超正統派の小さなユダヤ人共同社会の中で生活していて、この国の社会や近代社会とは別のところにいました。だから私にもこういう人たちへの共感がないわけではありません。彼らにだってそういう生活をする権利がある、と思っています。
それでもなお出来ることがあるとしたら?
教育が助けになる。これらの社会でも若い世代は変わりつつあります。
では最後の望みはまだ持っていらっしゃるんですね? 若い世代という。
希望はいつだってありますよ。
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念のため:私はこの新聞社の回し者ではありません。)
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