「閑話休題」ならぬ「休題閑話」では人食いアヒルの子がネットなどで見つけた面白い記事を勝手に翻訳して紹介しています。下のインタビュー記事は『国が金を出し、私経済が懐に入れる』というタイトルで2016年10月21日の南ドイツ新聞にのったものですが、長いので2回に分けました。

言語学者で資本主義批判者のノーム・チョムスキーを存命している世界の頭脳の中では最重要の一人と見なす人は多いが、そのチョムスキー氏がタダ乗り企業、国に作られた携帯電話、国民を馬鹿に保っておこうとする政府の企てなどについて語る。

インタヴュアー:
クラウス・フルバーシャイト
カトリン・ヴェルナー


人が自分を自由主義的な社会主義者と呼ぼうがズバリ無政府主義者と呼ぼうが、チョムスキー氏自身にとってはどうでもいいことだ - この、現在87歳、名門マサチューセッツ工科大学(MIT)の名誉教授はかなり前からすでに他人の目など気にかけていない。氏は両親が20世紀の初頭ウクライナからアメリカ合衆国に移住してきたのだが、存命している世界の頭脳の中では最重要の人物と見なされている。言語の習得は学習過程よりもむしろ先天的な言語能力によるものだというその理論は言語学に革命を起こした。さらにアメリカの国際政治、資本主義、ロビー活動に対する急進的な批判者、またマスコミ批判者としても一般に広く知られている。MITの研究室でインタヴューを受けてもらった。氏は高齢にも関わらず今でもほぼ毎日そこに通ってくる。

南ドイツ新聞
チョムスキー教授、お金の話をしましょう。教授の新刊は『誰が世界を支配しているか?』というタイトルになっています。でも答えはもう何百年も前に出ていると思ったのですが。

ノーム・チョムスキー
金が世界を支配する、というわけですか?いや、そう簡単には行きませんよ。権力と経済力との関係は多くの人が思っているより複雑なんです。ちょっと100年前のことを考えてみてください:アメリカの経済力はイギリス、フランス、ドイツを合わせたより強かったんですよ。でも政治的な権力ということからするとヨーロッパに比べてこの国は問題になりませんでした。

では一体何が世界を支配するのでしょうか?

アメリカの例をさらに見てみましょう。1945年には世界全体の経済の半分をアメリカ合衆国が握っていました。そして戦争で破壊されたヨーロッパの国が追いつた。後にはアジアの国々が台頭して来ました。今日のアメリカのシェアは22%でしかない。でも我が国はそれだけ権力がなくなりましたか?

いえ、逆です。

でしょう。けれどこの数字というのがそもそも誤解の元なんです。30年ちょっと前に新自由主義の時代が始まってから、国際敵に活動している大コンツェルンが国境なんかとは無関係にコンツェルンそれ自体の経済的小宇宙を形成してしまいましたからね。あと銀行とかも見て御覧なさい。50年代60年代の長い経済成長期の間は全体経済から見て金融機関の役割などほとんどありませんでした。市民から貯金を集めてそれを例えば自動車が買いたがっている人に貸す、とそれだけ。その後レーガンとクリントン大統領の政権下で巨大な自由化の波が押し寄せて、銀行が突然利潤全体の40%を懐に入れてるようになった。その結果が2008年の経済危機ですね。

それは逆に言うとこういう意味ですか?国が規制を緩めて税金を下げ、銀行やコンツェルンにその場を任せたりしなかったら、私たちは今頃もっといい世界に住んでいただろう、と?

そう言い切るつもりはありません。影響を持ってくる要因が他にたくさんありすぎますからね。経済現象を100%確実に予測できるのは経済学者だけでしょう。

1対0で言語学者の勝ちですね。

新自由主義だって見方によれば役に立ったことがたくさんあります。おかげで企業の利益は飛躍的に増えたし、そのことによってまた比較的長期間経済が安定していたし。でも圧倒的多数の単純労働者にとっては悪い時代でした。素晴らしい経済成長率にも関わらずその2007年の実質賃金は1979年より低い。

でも新自由主義で枷が外れたおかげで可能になった投資もあるのでは?規制が緩和されなかったらできなかったような投資です。

例えば情報テクノロジーのことですか?

そうです。以前だったら絶対に銀行からクレジットなんて受けられなかったような企業が突然リスクのある融資を受けられるようになったではありませんか。ありていに言うとつまり、新自由主義がなかったらひょっとしてスマートフォンもなかった、と。

すみません、それはちょっと違います。テクノロジーに関心があったのは大抵国のほうです。軍事面から考えても産業政策上の点でもね。最初にいろいろたくさん研究し出したのはシリコンバレーじゃない。例えばまさにここMITとかが国防省から研究費を貰ってやったんです。携帯電話とかパソコンもそう。IBMがパソコンを生産し始めたのはその後ですよ。耳にするのはいつも同じ:国が金を出し、私経済が懐に入れるんです。

他にやり方があるとしたらどんな? 国が自分でスマートフォンを作って売るとか?

公共機関が開発の費用を出すのなら利益のほうも公共的に回収するべきなんです。でもその代わり私たちはいわゆる自由貿易協定というものを結んでいるわけです。そこで製薬、電機、メディアの大コンツェルンの私的な利益が国に保護さえされているという・・・

なぜ国が製薬会社になんらかの保護政策をしてはいけないのですか?よりよい新薬を開発して公共の利益になっているではありませんか。

企業は何も開発しないからです。自社の薬品の分子をちょっといくつか変え、その薬品を売り込むためにマーケティングに大金を投入する。それに対して本来の開発研究はここのような国の実験室でやっているんですよ。ノバルティスとかファイザーのような大製薬企業はそれをちょっと見て回っておいしいアイデアをくすね取るだけ。国がこれを自分でやっていればアメリカの保険費はもっと徹底的に下げられるでしょう。

それはむしろこういうことではないんでしょうか、確かに国は基礎研究の費用はだすが、研究内容の専門的な査定はできず、創造力にも欠けているから、その知識を市場に出せるような、また生活に役立つような製品に変えることが出来ない、と。

おっしゃる通りです。そういうことは大学の研究所がやる必要はない。けれどそのノウハウを民間コンツェルンにタダであげてやる代わりに公共の、市民社会から選ばれた代表者が取り仕切る企業が製品をつくればいいんですよ。そうすれば権力を少数の民間企業に握られないですむ、というメリットもあります。

でも教授が提案しておられるような社会主義的な国の経済はもうテスト済みなのでは?例えば東ドイツとか。悲惨な結果になりましたが。

東ドイツでやっていたことは、社会主義とは何の関係もありません。東ドイツは単なる全体主義国家です。労働者には何の権利もなく、世論もまったく影響力がなかった。西ドイツのほうが東ドイツより社会主義的でしたよ。あそこには少なくとも労働者が経営に参加できる、最低限の線があった。

労働者が資本主義の被害者ならば、どうしてアメリカでは労働者がドナルド・トランプを追いかけているのですか?氏はほとんど資本主義のカリカチュアではありませんか。

他にどんな選択肢があります?アメリカの労働者はもうかれこれ40年以上も両方から無視されているんです。だから今体制全体に背を向けていて、少なくとも自分たちのことを覚えてくれているかのごとく振舞うトランプのような人に従うんです。

現実には人間の生活は、例えば50年前に比べればずっと良くなっているのではないでしょうか?教授は新自由主義が起こる以前の黄金時代のようにおっしゃってますが?

どこからそんなお考えが出て来るんですか?実質賃金の変遷についてはもうお話ししたではありませんか。

実質賃金についてはおっしゃる通りです。でも現在は不動産とか資本収益とか相続遺産とか他の収入を持っている人が多いですよ。

もちろん石器時代に比べれば現在の人間の生活は良くなってますよ。19世紀とくらべたって良くなっているでしょう。それに、まあなんというか、今は車で行くから、馬糞が道に2メートルも積みあがっていたりしていないし。けれどそういうことを尺度にはしていません。尺度にしているのは、豊かさがもっと別な風に配分されていたらどうなりえていたか、ということです。最低賃金の例で考えて見ましょう:70年代の始めには最低賃金は生産が上がるのと平行して上がっていっていた。そのあと、この両者が互いに離れていってしまった。これが当時のように発展して行っていたら今頃最低賃金は7ドル25セントではなくて20ドルくらいあったはずです。

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この記事は身の程知らずにもランキングに参加しています(汗)。
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