EUに属している国の国民にとって最高位の選挙は国会議員選でなくEU議会議員選挙である。
裁判についても日本なら最高裁が判決を出したらそこで決定だがEUではさらにその上のEU法廷というものがあるから、最高裁の判決がひっくり返ることもある。つまり一国といえども好き勝手がやれないわけで、ナショナリストがEUを目の敵にするのはこの点にもあるわけだ。確かにちょっと外から批判されただけで「ここは〇〇だ、内政干渉すんな」と敏感に騒ぎ出すタイプの人には耐えられないだろう。
 さてこのEU議会選だが、毎回投票率がいまひとつ低い。どうもEUというと雲の上過ぎて実生活とあまり直結していないからかもしれない。前回は確か投票率が50%を割っていた。私はまじめな市民なので(どこが?)どんなものにしろ今まで選挙に棄権したことがない。今回のEU議会選もきちんと票を入れた。地方議会選も同時にやったので、二つの選挙に投票することになった。
 
 有権者には選挙日のかなり前に通知が来るのでその手紙と身分証明書を持って指定の投票所に行く。この通知は郵便での投票や指定以外の投票所での投票を望む場合の申し込み書も兼ねている。選挙日の相当前に来るからついなくしたり忘れたりしそうになる。現に投票所で通知を提出してくださいと言われて「え?そんな手紙貰いましたっけ?」と言い放っていた人がいた。係の人も一瞬天を仰いでいたが、幸いなくした人用に予備の書類があるらしく、他の係りのところに行って記入してもらい事なきを得ていた。もっともこれはなくした人がきちんと身分証明書を提示したからである。さすがに身分証明書を忘れたら家まで取りにやらされるのではないだろうか。通知には投票所と日にちが書いてあるから「そんな手紙」の存在さえ忘れている人がなぜきちんと期日に所定の場所に来たのかという疑問がわくが、これは選挙の通知と別個に地方選の立候補者のリスト(後述)が前もって送られてくるからである。そこに選挙日が書いてある。また投票所も何十年も変わらないから選挙しなれた人なら自動的にそのいつもの投票所に行く。もっとも選挙しなれた人がどうして通知の存在が頭から抜けたのか謎だが、これも選挙に行くことが完全にルーチンワーク・デフォになっているとその当たり前のことを通知されてもいちいち覚えていられなくなるのかもしれない。ヤコブソンの言う「無標」unmarkedである。

私のところに来た選挙通知。
wahlbenachrichtigung1

裏は郵便投票などの申請用紙となっている。
wahlbenachrichtigung2

 投票所でEU議会候補のリストを渡されるが、これは党単位である。立候補した党がずらっと並んでいるやたらと長いリストをくれるので、その中の一つにマークを入れるのだ。雨後のタケノコのように湧いて出た泡沫政党が多くて「なんじゃこりゃ?」とスリル満点なリストである。私はさる大手の党に入れたが、ここは今回EU中で大躍進した。極右の天敵となった党だが、選挙後に大学の人にちょっと「何処に入れましたか?」と聞いてみたら聞く人聞く人この党で笑った。そういえば大きな大学のある町はどこもここの党が強い。
 また今回は投票率も「前回と比べて飛躍的に伸びて」、60%強だったそうだ。確かに前回の50%に比べれば飛躍的に高いがそれでも60%というのは低くないか?

 さて上にも書いたようにここは地方選挙も同時に行った。一つ一つの選挙をバラバラにやると効率が悪いからまとめられるものはまとめるのだ。この地方選挙はEU議会選と違って投票の仕方がやたらと複雑である。だから投票所で混乱しないようにあらかじめ候補者リスト(つまり投票用紙)を配り、票の入れ方も詳しく指示し、選挙者がすでに家で投票用紙に記入して来られるようにしてある(上記参照)。投票所ではその用紙を渡すだけでいいが、前もって準備させるだけあってこの投票方法がまた複雑だ。順を追って説明すると次のようになる。
1.リストは全部で13ページあり、切り離せるようになっている。
2.それぞれ1ページに1政党の候補者がリストアップされている。つまり候補政党は13あるわけだが、1政党ごとに48人まで候補者が認められている。小政党だとその48人を集められないところもあって立候補者が4人の政党などもある。もちろん普通の党なら48人書いてある。
3.投票者は全部で48ポイントまで投票権(投票点?)を持つ。
4.ある党の立候補者に全員票を入れたい人(つまり党単位に投票したい人)は、当該政党のページを切り離して全く何も書かずに投票箱に入れる。暇だったら候補者の名前の脇に全員1と書き込んで出してもいい。これで合計48ポイントとなる。
5.党単位でなく人物単位で投票したい人もいる。そういう場合は複数の党のページを切り離して当該候補者の脇に1と書き込み、切り取った複数ページを渡す。うっかり48人以上の人に票を入れてしまったらポイント制限に引っかかって無効票となる。
6.この人物には特に当選してもらいたい、と思っている人もいる。そういう人は一人の候補者に3点まで投票することができる。つまり1点、2点、3点というグラデーション投票が可能なのである。この場合も投票したい候補者のいる政党ページをすべて切り離して名前の脇に1、2、3などの数字を書き込む。合計点が48を超えたら無効票である。例えば全員に3点投票したら16人しか選べないのだ。

Did you understand?

 私は前回は候補者単位で投票したので電卓で合計点を確認しながら書き込んだが今回は党単位、さる政党のページを白紙で出した。EU議会とは別の党である。

投票用紙にはこんな手紙が添えられている。
brief


 地方選リストは選挙通知のずっと後から来るし、ボッテリとぶ厚い手紙なのでさすがに貰ったことを忘れる人はいないだろう。もっともそれでも貰ってから投票日までに時間があったのでちょっと各々の候補政党の様子を見てみた。立候補した13の政党とはつぎのようなものである。
SPD(社会党・革新)
CDU(キリスト教民主党・保守)
GRÜNE(緑の党)
Freie Wähler(大政党に属さないやや保守系の人の集まり)
AfD(極右)
Die Linke(共産党)
FDP(ネオリベ)
MfM(中流層市民のためのローカルな政党)
NPD(ズバリナチ。まだいたとは驚き)
Die PARTEI(言っていることが玉虫色でよくわからないローカル政党)
MVP(名前からすると多分保守系のローカル政党)
Tierschutzpartei(動物保護政党)
BIG(候補者が全員トルコ系の名前の政党)

そこであまり意味はないが立候補者に博士号持ちがどのくらいいるかどうか調べてみた。立候補者の住所と職業はリストに記されるが学歴は特に発表されない。が前にも書いたようにドイツでは博士号を取るとDr. という称号を前につけたのが正式な名前となるので、例えば Dr. Robert Müllerとなり、すぐわかるのだ。結果はこうなった。
SPD                    8人→16.6%
CDU                   6人→12.5%
GRÜNE              5人→10.4%
Freie Wähler       8人→16.7%
AfD                      2人→4.2%
Die Linke             3人→6.3%
FDP                     9人→18.8%
MfM                    0人→0%
NPD                    0人→0%
Die PARTEI        0人→0%
MVP                   0人→0%
Tierschutzpartei 0人→0%
BIG                    0人→0%

ネオリベのFDP(太字)が最も多いが、ここは医者とか弁護士、または経済経営学の大学教授などに支持者が多いのでまあうなずけるところだ。しかしいわゆる全国政党なら庶民・労働者の政党にさえ結構博士持ちがいることがわかる。『96.日本は学歴社会か』でも述べたが、ドイツには博士号持ちがウジャウジャいるので昔日本で言われていた「末は博士か大臣か」という言葉は意味を持たない。博士など全然「偉い人」ではないからである。ついでにいえば大臣というのもあまり偉い人という連想がない。立法にしろ行政にしろ、政治家はあくまで国民の公僕という意識が強く「ちゃんと仕事しろコラ」とハッパをかけられる存在だ。日本だって最近はそうだろう。しかし博士がやたらといるからといってさすがに国民の16%はいまい。やはり政治は学歴の高い者がある程度牛耳っているようだ。ドイツ(だけではあるまいが)の学歴社会ぶりを垣間見る思いである。

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