今思うと日本にいたころからもっと真面目にマカロニウエスタンを見ておくんだったと後悔している。当時は単にジュリアーノ・ジェンマやせいぜいフランコ・ネロにキャーキャー言って騒いでいただけだったが今じっくり見てみると顔ではジェンマに負けるが味のあるカッケーおいちゃんが他にも結構たくさんいるのだ。リー・バン・クリーフなどはいくらじっくりみてもちょっとアレではあるが、『12.ミスター・ノーボディ』でも書いたように、ギリシア・ローマ時代の古典さえ時々顔を出すこのジャンルは単に「ぶっ放せジャンゴ」「抜けリンゴ」で済ますには勿体なさすぎると私は思っている。
 ジークハルト・ルップについては『98.この人を見よ』で一度書いたが、実はもう一人記すべきオーストリア人がいる。何度か名前を出しているウィリアム・ベルガーWilliam Bergerである。『血斗のジャンゴ』で第三の主役をやった人だ。これもしつこく前に書いたようにとにかくラストシーンではこの人が大スターのトマス・ミリアンとジャン・マリア・ヴォロンテを食ってしまっていた。
 正義の名を借りて人間狩りをする自称犯罪者討伐対がミリアン&ヴォロンテ目指して砂漠の中を進んでいくがその時後からモリコーネの音楽(これが肝心)に乗って疾走しながら後を追いかけて来た者がいる。これが登場場面ではやたら暗かった(『87.血斗のジャンゴと殺しが静かにやって来る』参照)ベルガーである。

モリコーネの音楽を背景に颯爽とやってくるベルガー(左)。まあこの場面はスタントマンがやったのかもしれないが...
Berger-Reiten

こちらの画面右で馬に乗っているのは本当にベルガー。
alledrei

 前項でも述べたように彼も本来この二人を追う側であるから、その討伐隊に加わるのかなと思っていると彼はそこで皆の前に立ちはだかって「お前達のやっていることには法的正統性がないから手を出すな」と怒鳴りつける。せっかくの楽しみを邪魔された討伐隊の一人(知る人ぞ知るマカロニウェスタンの迷脇役アルド・サンブレルが発砲し弾が肩に当たる。それを持ち直してサンブレルを撃ち殺すとあとの者は動揺し、踵を返す。
 肩に弾を入れたままヴォロンテとミリアンの前に来て立ち(すぐ上の写真)、「お前たちを逮捕する」と宣言したものの、無防備でヴォロンテの前に立ったわけだから当然というかなんと言うかヴォロンテから2発目を食らう。ところがミリアンが立ち上がって投降すると言い出す。ヴォロンテは驚いて、ミリアンの決意を覆そうと「原因」になっているベルガーにとどめをさそうとした瞬間、ミリアンがベルガーを殺そうとしたヴォロンテを撃ち殺す。と、どさくさに紛れてネタバレ失礼。
 すでに死ぬ気でいたベルガーは状況を把握するのにちょっと時間を要するが、よろけながら立ち上がるとヴォロンテの死体の顔面に弾を何発も撃ち込み顔をめちゃくちゃにして判別不可能にし、「皆には死んだのはミリアンのほうだと言っておくから行け」とミリアンを逃がす。前にも言ったようにここでタイトルの「顔」という言葉が聞いてくるのだ。

 銃弾を受けた瞬間や、大儀そうに「逮捕する」という姿もカッチョよかったが、それより私が感心したのが最後ヴォロンテに銃を向けられた瞬間の演技である。膝を落としたまま見あげて、まずヴォロンテがわきで銃を構えて立っていることを確認、それから顔を下に向けるが、その状態でヴォロンテが撃鉄(ライフルの場合でも「撃鉄」っていうのか?)を起こした音を聞いて息を一つ吸って少し身を乗り出すようにする。死を覚悟したんだな、ということがはっきりと見て取れる。これは私が今まで見た中での「撃ち殺される直前」の表現のベスト賞である。実際は撃ち殺されなかったが。

大儀そうに「逮捕する」というウィリアム・ベルガー。
Berger1

『87.血斗のジャンゴと殺しが静かにやって来る』の項でも紹介したが、構図の美しいラスト。
Berger12

 もうひとつ印象に残っているのは「この人は撃たれ方が上手い」ということだった。皆さん、西部劇で人が銃に撃たれるところをどう描写しているか思い出して欲しい。もっとも多いパターンはうっと言って撃たれた箇所を手で押さえ苦痛に顔をゆがめる、というものだろう。派手にうわーとか叫んで両手を上に挙げグルグル回って倒れる、というのもありふれた描写だ、レオーネの『夕陽のガンマン』では撃たれた人が派手に叫んだり手を挙げたりぐるぐる回ったりしている割には弾傷が全くなく、なんなんだこれはと思った。
 また、撃たれた方がしばらく微動だにしないこともある。決闘シーンなどで観客にマを持たせるためによく使われる手だ。どちらが勝ったのかすぐにはわからせないでおいてこちらをハラハラさせようという戦法。何秒か立ってから一方がおもむろにバッタリ倒れるまで緊張感が続く。私に言わせればこういうのは緊張感でなく「わざとらしい」である。マカロニウエスタンではそれがまた特に不自然だ。
 さて上のシーンでのベルガー氏、弾を食らったときどう動いたか。当たった部分(肩だった)が一瞬何かにぶつかったようにピクリと動き、ほんのすこし足元がよろけたが、そのあとすぐ姿勢を持ちなおして敵に向かっていったのである。うーともいわなかったし痛そうな顔もしない、それでいてわざとらしく微動だにしなかったわけではない、当たったことはこちらに見てとれたのである。また痛そうな、というより疲れたような顔になったのはしばらく時間がたってからである。

 これは本当に銃で撃たれたことのある人たちの体験談と一致している。そこで皆が異口同音に述べているのは、銃で撃たれると一瞬何かぶつけられたか棒でその場所を叩かれたような気がする。かなり長い間痛みは感じない。まさに氏の撃たれかたはそんな感じだった。
 この撃たれ方の見事さはベルガー氏の演技力によるのか、それともセルジオ・ドナーティのスクリーン・プレイの書き方が上手かったのか。この映画のほかのシーンでは皆スタンダードなうわー的撃たれ方をしていたからこれはやっぱり氏の演技に帰するのではないかと思ったのでちょっとこの俳優の経歴を調べてみた。
 
 この人がオーストリア人であることは知られている。私はてっきりジークハルト・ルップなどのように本来ヨーロッパの本国で活動していたのがマカロニウェスタンに引っ張り出されたのだと思っていたが、どうもそうではないらしい。本名をヴィルヘルム・トーマス・ベルガーWillhelm Thomas Bergerといい、1928年にインスブルックの裕福な医者の家に生まれたが、一家は戦争が始まるとすぐにアメリカに逃げた。当時戦争がヤバくなって来てから国外逃亡した人は多いが、「始まってすぐ」というのは少ないのではないか。余程先見の銘があったかナチ嫌いだったのか。家が「裕福な医者」であったこと、1939年の時点、つまりオーストリアがドイツ支配下に入った時点で(しかも大部分のオーストリア国民はこの「ドイツ統一」を歓喜して迎えた)間髪を入れず亡命したところを見るとユダヤ系ででもあったのかと思うが確証はない。アメリカの俳優・監督などには亡命ユダヤ人が多いのだし。とにかくアメリカでコロンビア大学を出てしばらくIBMで働いた後に俳優に転向、NYのブロードウェイなどでそこそこの成功を収めている。また3年間兵役にも服している。なおコロンビア大学在学時に陸上競技で学内最高記録を出し、オリンピックに出そうになったそうだ。朝鮮戦争に従事したとのことで、ひょっとしたらこの人は本当に撃たれたことがあったのかも知れない。
 そのあとハリウッドに進出しようとして果たせず、生まれ故郷のヨーロッパを巡っているうちにイタリアでマカロニウェスタンに抜擢されたらしい。当時はヨーロッパ出身で英語に吹き替えしてやる必要のない俳優は希少価値だったらしい。

 いわゆる反体制派、既成の権力に対して反抗的な人であったらしく生活も派手で少なくとも4回結婚しているし(それはそれで大変結構です)、当時の住まいにはキース・リチャードなども時々やってきていたそうだ。一度麻薬支持の疑いで留置所に何ヶ月入っていたこともある。ただしこの時は結局「証拠なし」で刑は受けていない。どうもあらぬ疑いだったらしい。それよりも驚いたのがそのときの留置所での悲劇的な出来事で、映画史家なんかは結構皆知っているようだが、私は今回調べてみて始めて知った。
 ある夜中に例によってパーティーでドンチャン騒ぎの後、皆寝静まっていたら警察がいきなりドヤドヤ家宅捜査にのりこんできた。そしてそこでハシッシュの包みを見つけたそうだ。ベルガーが自分の所有ではないと誓ったが請合ってもらえず、そのとき家に泊まっていた客もろとも全員留置場に入れられた。バラバラにである。
 悲劇はそこからだ。当時の妻Carolyn Lobravicoさんは肝炎を患っており、それが劇症を起こして痛んでいるのを警察は「麻薬の禁断症状」とカン違いして精神疾患者の病院に入れベッドに縛り付けた。そのまま長い間放って置かれ、やっと他の病気であると気づいて普通の病院に担ぎ込まれたときはすでに遅く、Lobravicoさんは別のところに収容されている夫のベルガーにも会えずにそのまま亡くなった。その際の経過を後にベルガーは本に書いて出版している。私の本なんかより余程読む価値がありそうだ。
 数ヵ月後にベルガーは釈放されて俳優業を続けていった。チェルヴィの『野獣暁に死す』はその事件の前に撮られている。

 マカロニウエスタンの後はジャッロ映画などにも出て、マリオ・バーヴァ、ヘスス・フランコなど名前を聞くとウッと思ってしまう様な(失礼)監督の下で仕事をしているが、とにかく最後まで俳優業はまっとうしている。187もの(TV映画も含む)映画に出演しているから決して無名の俳優とはいえない。事実私程度のジャンルファンでもウィリアム・ベルガーという名はよく知っている。演技だって正当教育を受けている。顔もロバート・レッドフォード(我ながら出す俳優名が古い)にはかなわないだろうがハンサムの部類に入るだろうし、とにかくもうちょっと上まで行ける技量を持っていた俳優だったと思うが、残念ながら1993年にカリフォルニアで亡くなっている。65歳だったそうだ。同じオーストリア人でも人生経歴が堅実で地味なジークハルト・ルップとは対照的である。

オマケといってはナンだが、『野獣暁に死す』のウィリアム・ベルガー。画質が悪くて申し訳ない。
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