先日はドイツの連邦議会選挙だった。私は善良な市民(どこが?)なので今まで棄権したことがない。いかなる選挙のときもきちんと投票する。
 以下の記事は先の州議会選のことを書いたものだが、極右のAfDが台頭してきた以外は基本は同じである。というわけで古い記事のリサイクルで失礼。

元の記事はこちら。

 ドイツはイギリスあるいはアメリカと違って議会政党の選択肢が二つ以上ある。民主党か共和党のどちらか、労働党か保守党のどちらかという二項対立ではないのだ。もちろん二者選択が基本となっている国だって別に政党は二つまでと決められているわけではない。二大政党以外の党や無党派の比重が前者に比べて極端に低く、事実上二者選択となっているだけだ。
 二大政党そのものはドイツにもある。CDU(とその姉妹党CSU)(それぞれ「ドイツキリスト教民主党」と「ドイツキリスト教社会党」)とSPD(「ドイツ社会民主党」)で、前者が保守、後者が革新である。しかしその他にも強力な政党があり政治を左右する。昔はどちらかの大政党が単独で議席の過半数を取るのが基本だったらしいが、少なくとも私が選挙権を取った頃にはすでに「単独過半数は政党の夢」となっていた。大政党といえども他のどれかの党と連立しなければ過半数は取れないことが普通になっていたのである。
 保守CDUが通常連帯するのがネオリベのFDP(「自由民主党」)、そしてSPDはBundnis90/ DieGrünen(「同盟90・緑の党」)とくっつくのが基本である。その他にDie Linke(「左翼党」)という共産系の党がある。東独から引き継がれてきた党で、投票者も大半は旧東独住民、その意味では「地域限定の党」だ。その他極右や(こういっちゃ何だが)よくわからない泡沫政党が時々急に浮上して議会に参加することがあるが、ドイツの主な政党はCDU/CSU、SPD,FDP,Die Grünenの四つといっていい。
 これらの政党にはシンボルとなる色が決まっている。CDUは黒、SPDは赤、FDPは黄色、Die Grünenは文字通り緑である(もっとも弱小政党もシンボル色を決めてくることが多い。一時議会に顔を見せたが、今はほとんど見かけない「海賊党」は橙色、極右のAfD(「ドイツのもう一つの道」)は青、そしてDie Linkeは「濃い赤」ということでやや紫がかった赤で表される。なぜかピンク色になっていることもある)
 そのため連立政権は色の名を使って呼ばれることが多い。CDUFDP連立の保守政権は黒黄連立政権(schwarz-gelbe Koalition)、SPDDie Grünenだと赤緑連立(rot-grüne Koalition)だ。上でも述べたようにこの二つの組み合わせが基本形というか「基本のコンビ色」である。
 しかし時々二大政党がどちらも票を落とし、いつもの相棒と組んでも過半数に達しないことがある。あるいは相棒のほうが壊滅して大政党が立ち往生してしまったり。そういう時は二大政党が連立を組んだりもする。このCDUSPD連立は黒赤連立と呼ばれないこともないが、大抵は大連合(große Koalition、略して groko)という。
 実はこの大連合は「最後の手段」なのである。もともと政策や政治理念の反対な党が連立するわけだから、足並みがそろわないことが多い。いろいろ調整しなければならないことが出てきて党内部でも意見が分裂したり、妥協妥協の連続で法案が骨抜きになったりする。だから票が取れなかったときは大連合は避けて、いつもの相棒に加えてさらに向こう側の相棒を引っ張り込んで三党連立という手をとることもまれではない。それら「非大政党」、つまりFDPにしろDie Grünenにしろ別にCDUやSPDと組まなければいけないと法律や契約で決まっているわけではないから、政権を取れるとなればいつもの相棒に義理だてなどしない。大政党が選挙で第一党になりながら、連立相手に断られて過半数が取れず、第二党・第三党・第四党が連立を組んで政権をとることさえある。とにかくドイツは選挙のあとの連立作戦が面白く、選挙そのものよりよほどスリルがある。この楽しみのないアングロ・サクソン系の国の選挙はさぞ退屈だろうと思うくらいだ。
 
 その三党連立であるが、こういう事態はいわばイレギュラーなのでインパクトが強いためかその呼び方がまた面白い。単純に色では呼ばないのである。例えばSPDFDPDie Grünenの連立は赤・黄色・緑で信号連立(Ampel-Koalition)。でもこれなんかはまだ平凡な命名だ。
 
 CDUFDPDie Grünenの三党連立は黒・黄・緑で、前は黒信号連立(schwarze Ampel 、シュヴァルツェ・アンペル、略してシュヴァンペルSchwampel)と呼ばれていたが誰かがこれをジャマイカ連立と命名して以来、この名前が主となった。この色の組み合わせをジャマイカの国旗に見立てたのである。
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 先のザクセン・アンハルト州選挙ではCDUSPDDie Grünenが連立を組んだが、これはケニア連立と呼ばれる。
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 またCDUSPDFDPが連立すればドイツ連立だと誰かが言っていたが、実際にこういう連立になっているのを見たことがない。声はすれども姿は見えずといったところか。しかもドイツの国旗の一番下は本当は黄色でなく金色なのだから、この命名は不適切ではないのか。むしろベルギー連立と呼んだほうがいいだろう。
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左がドイツ、右がベルギーの国旗だが、ドイツの一番下の色は黄色でなくて実は金色(のはず)である。

 実は上の信号連立にも国旗に例えた名前がある。まさか「呼び名が面白くないから」という理由でもないだろうがセネガル連立またはアフリカ連立という言い方もあるそうだ。私は知らなかった。後者はこの三色を国旗に使っている国がアフリカに多いからだろう。

 私の住んでいるバーデン・ヴュルテンベルク州では前回の選挙でなんと緑の党が第一党になり(私はここに入れた)同時に大政党のSPDのほうが壊滅したため、緑の党CDUと連立を組んだ。三党連立ではないが、緑と黒の二色連立、しかも前者が第一党というのは極めてまれな現象だったのでさらに話題性が強く、通常のように色では呼ばれず、キウイ連立という名称が考え出された。果物のほうのキウイである。全体が緑色の実の中にポチポチと黒いタネがあるからだ。

SPDFDPの連立というも見たことがないし、今後も起こりそうにないがこれはなんと呼んだらいいのか。マケドニア連立とでも呼びたいところだが、「マケドニア」という国名を使うことをEU仲間のギリシアが頑強に反対しているので旧ユーゴスラビア・マケドニア連立と呼んでやらないとまずそうだ。これでは長すぎるので中国連立あたりにしておいたほうがいいかもしれない。
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左がマケドニア、右が中国。SPDとFDPとの連立ならば多分SPDが第一党になるだろうから赤字に黄色が少し、という意味で「中国連立」と命名したほうがいいかもしれない。


 中国・マケドニア連立よりさらにあり得ないのはFDPDie Grünenとの連立である。でもひょっとしたらバーデン・ヴュルテンベルク州でそのうち本当に実現するかもしれない。万が一こういう連立が誕生してしまったら菜の花連立あるいはたんぽぽ連立とでも名付けるしかない。まあ春らしくて明るいイメージの政権ではある。

なお、上で述べたザクセン・アンハルト州では選挙の直後連立問題が非常にモメ、一時CDUDie Linkeが連立するという噂が立ったことがあった。保守の側ではこれを密かにハラキリ連立と呼んで反対する党員が多かったそうだ。幸い、といっていいのかどうかこのハラキリは成立せず、めでたくケニアになったのであった。

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