注意:この記事はGoogle Chromeで見るとレイアウトが崩れてしまいます。私は回し者ではありませんが、できればMozilla Firefoxをお使いください。
ドイツ語の映画のタイトルに最も頻繁に登場する名前といえばダントツに「ジャンゴ」(Django)だろう。そう、言わずと知れた『続・荒野の用心棒』(原題はズバリ『ジャンゴ』)の主人公の名前だが、この映画が当時ヨーロッパ中でクソ当たりしたために、後続のマカロニウエスタンの相当数が露骨に柳の下のドジョウを狙って主人公の名前をジャンゴとしているのだ。
最近は「ジャンゴ」というとタランティーノの方をコルブッチの原作より先に思い浮かべる、どころかそれしか思い浮かばない若造(おっと失礼)が多いようだが、そういう人は、黒澤明の『用心棒』を見て、「これ、レオーネの『荒野の用心棒』とストーリーそっくりじゃないかよ」と黒澤監督をパクリ扱いしたさるドイツ人を笑えまい。
さて、そのジャンゴ映画量産のことだが、ドイツ人はやることが徹底しているので、もとの映画では主人公が全く別の名前だった作品にまで「○○のジャンゴ」というドイツ語タイトルをつけ、吹き替えで名前を勝手にジャンゴにしてしまっている。フランコ・ネロが主役であればほぼ自動的に主人公は「ジャンゴ」。で、『ガンマン無頼』の主人公バート・サリバンもドイツではジャンゴだ。さらにネロがティナ・オーモンと撮った『裏切りの荒野』という作品。これはメリメの『カルメン』を土台にしたものだから、主人公も当然ホセという名前だったが、ドイツ語版ではこれが脈絡もなくジャンゴにされている。マカロニウエスタンのネタにするなんてメリメへの冒涜ではないのか。とかいうと逆にマカロニウエスタンへの冒涜になるかもしれないが。
とにかくフランコ・ネロばかりでなく、原作ではサルタナという名前だったジョージ・ヒルトンの役もアンソニー・ステファン(まあこれは原作からすでにジャンゴだった役もかなりあったが)もドサクサに紛れてジャンゴにされた。テレンス・ヒルも原作とは無関係にジャンゴになったことがある。ジュリアーノ・ジェンマやジャン・ルイ・トランティニャンまでジャンゴ扱いされなかったのは奇跡というほかはない。
下に示すのはそういった一連の「ジャンゴ映画」の一覧表だが、イタリア語原題と比べてドイツではいかに執拗に「ジャンゴ」が映画タイトルになっているかわかるだろう。左が製作年、その右がタイトルだが、イタリックで示したのがイタリアでの原題(まるでダジャレだ)、下がドイツ語タイトルである。日本で劇場公開されていない作品など邦題がわからなかったものが多く、正直いちいち調べるのもカッタルかったので邦題をあまり表示していなくて申し訳ない。
しかし一方マカロニウエスタンには、私のような普通になんとなく映画を見ているだけの常人の想像を絶するようなフリークがいて、作品の製作年と監督や主役の名前を見ればどの映画かすぐわかり内容がたちまち思い浮かんでくるという変態いや専門家ばかりだから邦題など必要あるまい。このリストに上がっているジャンゴ映画は全部見た、と言いだす人がいても私は全然驚かない。ドイツは特にそうだ。私など「見たような気はするが内容は全然覚えていない」という程度の不確実なものまで勘定して水増し申告しても、この中で見た映画はせいぜい10作品くらいである。完全に修行が足りない。
1966 Django
Django
『続・荒野の用心棒』
監督:セルジオ・コルブッチ、キャスト:フランコ・ネロ、ロレダナ・ヌシアク
1966 Le colt cantarono la morte e fu... tempo di massacro
Django – Sein Gesangbuch war der Colt
『真昼の用心棒』
監督:ルチオ・フルチ、キャスト:フランコ・ネロ、ジョージ・ヒルトン
1966 Django spara per primo
Django – Nur der Colt war sein Freund
監督:アルベルト・デ・マルティーノ、キャスト:グレン・サクソン、フェルナンド・サンチョ
1966 La più grande rapina nel West
Ein Halleluja für Django
監督:マウリツィオ・ルチディ、キャスト:ジョージ・ヒルトン、ハント・パワーズ
1966 Pochi Dollari per Django
Django kennt kein Erbarmen
監督:レオン・クリモフスキー、キャスト:アンソニー・ステファン、フランク・ヴォルフ
1966 Sette Dollari sul rosso
Django – Die Geier stehen Schlange
『地獄から来たプロガンマン』
監督:アルベルト・カルドーネ、キャスト:アンソニー・ステファン、フェルナンド・サンチョ
1966 Starblack
Django – Schwarzer Gott des Todes
監督:ジャンニ・グリマルディ、キャスト:ロバート・ウッズ、へルガ・アンダーソン
1966 Texas, addio
Django, der Rächer
『ガンマン無頼』
監督:フェルディナンド・バルディ、キャスト:フランコ・ネロ、アルベルト・デラクア
1967 Bill il taciturno
Django tötet leise
監督:マッシモ・プピロ、キャスト:ジョージ・イーストマン、リアナ・オルフェイ
1967 Cjamango
Django – Kreuze im blutigen Sand
監督:エドアルド・ムラルジア、キャスト:イヴァン・ラシモフ、エレーヌ・シャネル
1967 Dio perdona … io no!
Gott vergibt… Django nie!
監督:ジュゼッペ・コリッツィ、キャスト:テレンス・ヒル、バッド・スペンサー
1967 Due rrringos nel Texas
Zwei Trottel gegen Django
『テキサスから来た2人のリンゴ』
監督:マリーノ・ジロラーミ、キャスト:フランコ・フランキ、チッチオ・イングラシア
1967 Le due facce del dollaro
Django - sein Colt singt sechs Strophen
監督:ロベルト・ビアンキ・モンテロ、
キャスト:モンティ・グリーンウッド、ガブリエラ・ジョルジェッリ
1967 Il figlio di Django
Der Sohn des Django
監督:オスヴァルド・チヴィラーニ、キャスト:ガイ・マディソン、ガブリエレ・ティンティ
1967 Il momento di uccidere
Django – Ein Sarg voll Blut
監督:ジュリアーノ・カルニメオ、キャスト:ジョージ・ヒルトン、ウォルター・バーンズ
1967 Non aspettare, Django, spara!
Django – Dein Henker wartet
監督:エドアルド・マラルジア、キャスト:イヴァン・ラシモフ、ペドロ・サンチェス
1967 Per 100.000 Dollari t’ammazzo
Django der Bastard
監督:ジョヴァンニ・ファゴ、キャスト:ジャンニ・ガルコ、クラウディオ・カマソ
1967 Preparati la bara!
Django und die Bande der Gehenkten
『皆殺しのジャンゴ』
監督:フェルナンド・バルディ、キャスト:テレンス・ヒル、ホルスト・フランク
1967 Quella sporca storia nel West
Django – Die Totengräber warten schon
『ジョニー・ハムレット』
監督:エンツォ・カステラーリ、キャスト:アンドレア・ジョルダーナ、ギルバート・ローランド
1967 Se sei vivo spara
Töte, Django
『情無用のジャンゴ』
監督:ジュリオ・クエスティ、キャスト:トマス・ミリアン、ピエロ・ルッリ
1967 Se vuoi vivere… spara!
Andere beten – Django schießt
監督:セルジオ・ガローネ、キャスト:イヴァン・ラシモフ、ジョヴァンニ・チャンフリーリャ
1967 Sentenza di morte
Django – Unbarmherzig wie die Sonne
監督:マリオ・ランフランキ、キャスト:ロビン・クラーク、トマス・ミリアン
1967 L’uomo, l’orgoglio, la vendetta
Mit Django kam der Tod
『裏切りの荒野』
監督:ルイジ・バッツォーニ、キャスト:フランコ・ネロ、ティナ・オーモン
1967 L'uomo venuto per uccidere
Django – unersättlich wie der Satan
監督:レオン・クリモフスキー、キャスト:リチャード・ワイラー、ブラッド・ハリス
1967 La vendetta è il mio perdono
Django – sein letzter Gruß
監督:ロベルト・マウリ、キャスト:タブ・ハンター、エリカ・ブランク
1967 Lo voglio morto
Django – ich will ihn tot
監督:パオロ・ビアンキーニ、キャスト:クレイグ・ヒル、レア・マッサリ
1968 Black Jack
Auf die Knie, Django
監督:ジャンフランコ・バルダネッロ、キャスト:ロバート・ウッズ、ルシエンヌ・ブリドゥ
1968 Chiedi perdono a Dio, non a me
Django – den Colt an der Kehle
監督:ヴィンツェンツォ・ムソリーノ、キャスト:ジョージ・アルディソン、ピーター・マーテル
1968 Execution
Django – Die Bibel ist kein Kartenspiel
監督:ドメニコ・パオレッラ、キャスト:ジョン・リチャードソン、ミモ・パルマーラ
1968 Una lunga fila di croci
Django und Sartana, die tödlichen Zwei
監督:セルジオ・ガローネ、キャスト:アンソニーステファン、ウィリアム・ベルガー
1968 Quel caldo maledetto giorno di fuoco
Django spricht kein Vaterunser
監督:パオロ・ビアンキーニ、キャスト:ロバート・ウッズ、ジョン・アイルランド
1968 Réquiem para el gringo
Requiem für Django
監督:ホセ・ルイス・メリーノ、キャスト:ラング・ジェフリース、フェミ・ベヌッシ
1968 Il suo nome gridava vendetta
Django spricht das Nachtgebet
監督:マリオ・カイアーノ、キャスト:アンソニー・ステファン、ウィリアム・ベルガー
1968 T’ammazzo!… raccomandati a Dio
Django, wo steht Dein Sarg?
監督:オスヴァルド・チヴィラーニ、キャスト:ジョージ・ヒルトン、ジョン・アイルランド
1968 Uno di più all’inferno
Django – Melodie in Blei
監督:ジョヴァンニ・ファゴ、キャスト:ジョージ・ヒルトン、ポール・スティーブンス
1968 Uno dopo l’altro
Von Django – mit den besten Empfehlungen
監督:ニック・ノストロ、キャスト:リチャード・ハリソン、パメラ・チューダー
1968 Vado… l’ammazzo e torno
Leg ihn um, Django
『黄金の三悪人』
監督:エンツォ・カステラーリ、キャスト:ジョージ・ヒルトン、ギルバート・ローランド
1969 Ciakmull, l’uomo della vendetta
Django – Die Nacht der langen Messer
監督:エンツォ・バルボーニ、キャスト:レオナード・マン、ウッディー・ストロード
1969 Dio perdoni la mia pistola
Django – Gott vergib seinem Colt
監督:レオポルド・サヴォナ、キャスト:ワイド・プレストン、ロレダナ・ヌシアク
1969 Django il bastardo
Django und die Bande der Bluthunde
監督:セルジオ・ガローネ、キャスト:アンソニーステファン、パオロ・ゴズリーノ
1969 Django sfida Sartana
(ドイツ劇場未公開)
監督:パスクァーレ・スキティエリ、キャスト:ジョルジョ・アルディソン、トニー・ケンダル
1970 Arrivano Django e Sartana…è la fine!
Django und Sartana kommen
監督:デモフィロ・フィダーニ、キャスト:ハント・パワーズ、ゴードン・ミッチェル
1970 C’è Sartana… vendi la pistola e comprati la bara!
Django und Sabata – wie blutige Geier
監督:ジュリアーノ・カルニメオ、キャスト:ジョージ・ヒルトン、チャールズ・サウスウッド
1970 Quel maledetto giorno d'inverno…Django e Sartana… all’ultimo sangue
(ドイツ劇場未公開)
監督:デモフィロ・フィダーニ、キャスト:ハント・パワーズ、ファビオ・テスティ
1970 Uccidi Django… uccidi per primo!
(ドイツ劇場未公開)
監督:セルジオ・ガローネ、キャスト:ジャコモ・ロッシ・スチュアート、アルド・サンブレル
1971 Anche per Django le carogne hanno un prezzo
Auch Djangos Kopf hat seinen Preis
監督:ルイジ・バッツェラ、キャスト:ジェフ・キャメロン、ジョン・デズモント
1971 Il mio nome è Mallory "M" come morte
Django – Unerbittlich bis zum Tod
監督:マリオ・モローニ、キャスト:ロバート・ウッズ、ガブリエラ・ジョルジェッリ
1971 Quel maledetto giorno della resa dei conti
Django – Der Tag der Abrechnung
監督:セルジオ・ガローネ、キャスト:グイド・ロロブリジーダ、タイ・ハーディン
1971 Una pistola per cento croci
Django, eine Pistole für hundert Kreuze
監督:カルロ・クロッコーロ、キャスト:トニー・ケンダル、マリーナ・ムリガン
1971 W Django!
Ein Fressen für Django
監督:エドアルド・ムラルジア、キャスト:アンソニー・ステファン、クラウコ・オノラート
1972 La lunga cavalcata della vendetta
Djangos blutige Spur
監督:タニオ・ボッチア、キャスト:リチャード・ハリソン、アニタ・エクバーグ
1987 Django 2: il grande ritorno
Djangos Rückkehr
監督:ネッロ・ロサーティ、キャスト:フランコ・ネロ、クリストファー・コネリ
さて、その元祖となった『続・荒野の用心棒』の主人公ジャンゴだが、監督のセルジオ・コルブッチはこの名前をヨーロッパのジャズ・ギターの第一人者ジャンゴ・ラインハルトから持って来ている。ラインハルトはベルギー生まれのロマ、フランス語でマヌシュと呼ばれるグループの出身らしいが、このマヌシュは『50.ヨーロッパ最大の少数言語』の項で述べたようにドイツのロマ、シンティと同じ方言グループに属している。つまり「ジャンゴ」という名前は本来ロマニ語。その名前の由来について調べてみたら2説あった。
1.Django(またはDžango)はJean、Johannes、Giovanniという名前のロマニ語バージョンである。
2.Džangoとはロマニ語でI wake up、または I woke upという意味である。
困った。どちらの説でも疑問点が出てきてしまったからだ。
1について:
Jean、Johannes、Giovanniのロマニ語バージョンならDžanoとかいう形にはならないのか?その/g/という音素はどこから来たのか。
2について:
調べてみたら「目覚める」というロマニ語はdžungadol、方言によってはdžangadolまたはdžangavel(辞書形は3人称単数形)だそうだが、それなら「私は目覚める」はdžangaduaまたはdžangavua(シンティ)、あるいはdžangadavもしくはdžangavav(その他の方言)、「私は目覚めた」だと džangadomまたはdžangavomとか何とかになると思うのだが。/d/または/v/の音素が消えてしまっているのはなぜか?
つまりどちらも確かに形は似ているとはいえ、前者は音素が一つ余り、後者は一つ足りない。帯に短し襷に長しでどちらもストレートにDžangoにはならない。もっともシンティのdžangavuaが一番近いなとは思ったし、
džangavua→[dʒanɡavʊa]→[dʒanɡaʊa]→[dʒanɡɔ:]→[dʒanɡɔ]
とかなんとか音の変化の流れを解釈すれば説明がつかないことはない。
しかし私はロマニ語ができないので確かなことはわからないし、こんな小さなことは本なんかには出ていないだろうと思ったので人に聞くしかないなと判断し、まずオーストリアのグラーツ大学の教授に上のようなことを述べ、「どっちが正しいんでしょうか?」と問い合わせのメールを出したが音沙汰なし。「この忙しいのになんなんだこの馬鹿メールは?」と無視されたか(されて当然だと我ながら思う)、スパム扱いされて自動的にゴミ箱行きになったかと思い、今度はヨーロッパでロマニ語研究プロジェクトを立てているもう一つの大学、イギリスのマンチェスター大にメールを出してみたら2日後に次のような返事が来た。
Dear 人食いアヒルの子,
unfortunately we are not able to help you.
Reconstructing the etymology of personal name is almost impossible if there are no written records of a given name across a considerable length of time. Unfortunately, this is the case for Django.
Sorry to disappoint you,
*** ***
Romani Project
School of Languages, Linguistics & Cultures
University of Manchester
Manchester M13 9PL, UK
*** ***という部分は研究員の方の名前だが、もちろん伏せ字にしておいた。しかし2日もたってから返事が来たということは一応まじめに検討してくれたのか、それとも単に放っておかれたのか?どちらにしても大変お騒がせしました。
と、いうわけでジャンゴという名前の由来は「わからない」というつまらないオチに終わってしまった。
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ドイツ語の映画のタイトルに最も頻繁に登場する名前といえばダントツに「ジャンゴ」(Django)だろう。そう、言わずと知れた『続・荒野の用心棒』(原題はズバリ『ジャンゴ』)の主人公の名前だが、この映画が当時ヨーロッパ中でクソ当たりしたために、後続のマカロニウエスタンの相当数が露骨に柳の下のドジョウを狙って主人公の名前をジャンゴとしているのだ。
最近は「ジャンゴ」というとタランティーノの方をコルブッチの原作より先に思い浮かべる、どころかそれしか思い浮かばない若造(おっと失礼)が多いようだが、そういう人は、黒澤明の『用心棒』を見て、「これ、レオーネの『荒野の用心棒』とストーリーそっくりじゃないかよ」と黒澤監督をパクリ扱いしたさるドイツ人を笑えまい。
さて、そのジャンゴ映画量産のことだが、ドイツ人はやることが徹底しているので、もとの映画では主人公が全く別の名前だった作品にまで「○○のジャンゴ」というドイツ語タイトルをつけ、吹き替えで名前を勝手にジャンゴにしてしまっている。フランコ・ネロが主役であればほぼ自動的に主人公は「ジャンゴ」。で、『ガンマン無頼』の主人公バート・サリバンもドイツではジャンゴだ。さらにネロがティナ・オーモンと撮った『裏切りの荒野』という作品。これはメリメの『カルメン』を土台にしたものだから、主人公も当然ホセという名前だったが、ドイツ語版ではこれが脈絡もなくジャンゴにされている。マカロニウエスタンのネタにするなんてメリメへの冒涜ではないのか。とかいうと逆にマカロニウエスタンへの冒涜になるかもしれないが。
とにかくフランコ・ネロばかりでなく、原作ではサルタナという名前だったジョージ・ヒルトンの役もアンソニー・ステファン(まあこれは原作からすでにジャンゴだった役もかなりあったが)もドサクサに紛れてジャンゴにされた。テレンス・ヒルも原作とは無関係にジャンゴになったことがある。ジュリアーノ・ジェンマやジャン・ルイ・トランティニャンまでジャンゴ扱いされなかったのは奇跡というほかはない。
下に示すのはそういった一連の「ジャンゴ映画」の一覧表だが、イタリア語原題と比べてドイツではいかに執拗に「ジャンゴ」が映画タイトルになっているかわかるだろう。左が製作年、その右がタイトルだが、イタリックで示したのがイタリアでの原題(まるでダジャレだ)、下がドイツ語タイトルである。日本で劇場公開されていない作品など邦題がわからなかったものが多く、正直いちいち調べるのもカッタルかったので邦題をあまり表示していなくて申し訳ない。
しかし一方マカロニウエスタンには、私のような普通になんとなく映画を見ているだけの常人の想像を絶するようなフリークがいて、作品の製作年と監督や主役の名前を見ればどの映画かすぐわかり内容がたちまち思い浮かんでくるという変態いや専門家ばかりだから邦題など必要あるまい。このリストに上がっているジャンゴ映画は全部見た、と言いだす人がいても私は全然驚かない。ドイツは特にそうだ。私など「見たような気はするが内容は全然覚えていない」という程度の不確実なものまで勘定して水増し申告しても、この中で見た映画はせいぜい10作品くらいである。完全に修行が足りない。
1966 Django
Django
『続・荒野の用心棒』
監督:セルジオ・コルブッチ、キャスト:フランコ・ネロ、ロレダナ・ヌシアク
1966 Le colt cantarono la morte e fu... tempo di massacro
Django – Sein Gesangbuch war der Colt
『真昼の用心棒』
監督:ルチオ・フルチ、キャスト:フランコ・ネロ、ジョージ・ヒルトン
1966 Django spara per primo
Django – Nur der Colt war sein Freund
監督:アルベルト・デ・マルティーノ、キャスト:グレン・サクソン、フェルナンド・サンチョ
1966 La più grande rapina nel West
Ein Halleluja für Django
監督:マウリツィオ・ルチディ、キャスト:ジョージ・ヒルトン、ハント・パワーズ
1966 Pochi Dollari per Django
Django kennt kein Erbarmen
監督:レオン・クリモフスキー、キャスト:アンソニー・ステファン、フランク・ヴォルフ
1966 Sette Dollari sul rosso
Django – Die Geier stehen Schlange
『地獄から来たプロガンマン』
監督:アルベルト・カルドーネ、キャスト:アンソニー・ステファン、フェルナンド・サンチョ
1966 Starblack
Django – Schwarzer Gott des Todes
監督:ジャンニ・グリマルディ、キャスト:ロバート・ウッズ、へルガ・アンダーソン
1966 Texas, addio
Django, der Rächer
『ガンマン無頼』
監督:フェルディナンド・バルディ、キャスト:フランコ・ネロ、アルベルト・デラクア
1967 Bill il taciturno
Django tötet leise
監督:マッシモ・プピロ、キャスト:ジョージ・イーストマン、リアナ・オルフェイ
1967 Cjamango
Django – Kreuze im blutigen Sand
監督:エドアルド・ムラルジア、キャスト:イヴァン・ラシモフ、エレーヌ・シャネル
1967 Dio perdona … io no!
Gott vergibt… Django nie!
監督:ジュゼッペ・コリッツィ、キャスト:テレンス・ヒル、バッド・スペンサー
1967 Due rrringos nel Texas
Zwei Trottel gegen Django
『テキサスから来た2人のリンゴ』
監督:マリーノ・ジロラーミ、キャスト:フランコ・フランキ、チッチオ・イングラシア
1967 Le due facce del dollaro
Django - sein Colt singt sechs Strophen
監督:ロベルト・ビアンキ・モンテロ、
キャスト:モンティ・グリーンウッド、ガブリエラ・ジョルジェッリ
1967 Il figlio di Django
Der Sohn des Django
監督:オスヴァルド・チヴィラーニ、キャスト:ガイ・マディソン、ガブリエレ・ティンティ
1967 Il momento di uccidere
Django – Ein Sarg voll Blut
監督:ジュリアーノ・カルニメオ、キャスト:ジョージ・ヒルトン、ウォルター・バーンズ
1967 Non aspettare, Django, spara!
Django – Dein Henker wartet
監督:エドアルド・マラルジア、キャスト:イヴァン・ラシモフ、ペドロ・サンチェス
1967 Per 100.000 Dollari t’ammazzo
Django der Bastard
監督:ジョヴァンニ・ファゴ、キャスト:ジャンニ・ガルコ、クラウディオ・カマソ
1967 Preparati la bara!
Django und die Bande der Gehenkten
『皆殺しのジャンゴ』
監督:フェルナンド・バルディ、キャスト:テレンス・ヒル、ホルスト・フランク
1967 Quella sporca storia nel West
Django – Die Totengräber warten schon
『ジョニー・ハムレット』
監督:エンツォ・カステラーリ、キャスト:アンドレア・ジョルダーナ、ギルバート・ローランド
1967 Se sei vivo spara
Töte, Django
『情無用のジャンゴ』
監督:ジュリオ・クエスティ、キャスト:トマス・ミリアン、ピエロ・ルッリ
1967 Se vuoi vivere… spara!
Andere beten – Django schießt
監督:セルジオ・ガローネ、キャスト:イヴァン・ラシモフ、ジョヴァンニ・チャンフリーリャ
1967 Sentenza di morte
Django – Unbarmherzig wie die Sonne
監督:マリオ・ランフランキ、キャスト:ロビン・クラーク、トマス・ミリアン
1967 L’uomo, l’orgoglio, la vendetta
Mit Django kam der Tod
『裏切りの荒野』
監督:ルイジ・バッツォーニ、キャスト:フランコ・ネロ、ティナ・オーモン
1967 L'uomo venuto per uccidere
Django – unersättlich wie der Satan
監督:レオン・クリモフスキー、キャスト:リチャード・ワイラー、ブラッド・ハリス
1967 La vendetta è il mio perdono
Django – sein letzter Gruß
監督:ロベルト・マウリ、キャスト:タブ・ハンター、エリカ・ブランク
1967 Lo voglio morto
Django – ich will ihn tot
監督:パオロ・ビアンキーニ、キャスト:クレイグ・ヒル、レア・マッサリ
1968 Black Jack
Auf die Knie, Django
監督:ジャンフランコ・バルダネッロ、キャスト:ロバート・ウッズ、ルシエンヌ・ブリドゥ
1968 Chiedi perdono a Dio, non a me
Django – den Colt an der Kehle
監督:ヴィンツェンツォ・ムソリーノ、キャスト:ジョージ・アルディソン、ピーター・マーテル
1968 Execution
Django – Die Bibel ist kein Kartenspiel
監督:ドメニコ・パオレッラ、キャスト:ジョン・リチャードソン、ミモ・パルマーラ
1968 Una lunga fila di croci
Django und Sartana, die tödlichen Zwei
監督:セルジオ・ガローネ、キャスト:アンソニーステファン、ウィリアム・ベルガー
1968 Quel caldo maledetto giorno di fuoco
Django spricht kein Vaterunser
監督:パオロ・ビアンキーニ、キャスト:ロバート・ウッズ、ジョン・アイルランド
1968 Réquiem para el gringo
Requiem für Django
監督:ホセ・ルイス・メリーノ、キャスト:ラング・ジェフリース、フェミ・ベヌッシ
1968 Il suo nome gridava vendetta
Django spricht das Nachtgebet
監督:マリオ・カイアーノ、キャスト:アンソニー・ステファン、ウィリアム・ベルガー
1968 T’ammazzo!… raccomandati a Dio
Django, wo steht Dein Sarg?
監督:オスヴァルド・チヴィラーニ、キャスト:ジョージ・ヒルトン、ジョン・アイルランド
1968 Uno di più all’inferno
Django – Melodie in Blei
監督:ジョヴァンニ・ファゴ、キャスト:ジョージ・ヒルトン、ポール・スティーブンス
1968 Uno dopo l’altro
Von Django – mit den besten Empfehlungen
監督:ニック・ノストロ、キャスト:リチャード・ハリソン、パメラ・チューダー
1968 Vado… l’ammazzo e torno
Leg ihn um, Django
『黄金の三悪人』
監督:エンツォ・カステラーリ、キャスト:ジョージ・ヒルトン、ギルバート・ローランド
1969 Ciakmull, l’uomo della vendetta
Django – Die Nacht der langen Messer
監督:エンツォ・バルボーニ、キャスト:レオナード・マン、ウッディー・ストロード
1969 Dio perdoni la mia pistola
Django – Gott vergib seinem Colt
監督:レオポルド・サヴォナ、キャスト:ワイド・プレストン、ロレダナ・ヌシアク
1969 Django il bastardo
Django und die Bande der Bluthunde
監督:セルジオ・ガローネ、キャスト:アンソニーステファン、パオロ・ゴズリーノ
1969 Django sfida Sartana
(ドイツ劇場未公開)
監督:パスクァーレ・スキティエリ、キャスト:ジョルジョ・アルディソン、トニー・ケンダル
1970 Arrivano Django e Sartana…è la fine!
Django und Sartana kommen
監督:デモフィロ・フィダーニ、キャスト:ハント・パワーズ、ゴードン・ミッチェル
1970 C’è Sartana… vendi la pistola e comprati la bara!
Django und Sabata – wie blutige Geier
監督:ジュリアーノ・カルニメオ、キャスト:ジョージ・ヒルトン、チャールズ・サウスウッド
1970 Quel maledetto giorno d'inverno…Django e Sartana… all’ultimo sangue
(ドイツ劇場未公開)
監督:デモフィロ・フィダーニ、キャスト:ハント・パワーズ、ファビオ・テスティ
1970 Uccidi Django… uccidi per primo!
(ドイツ劇場未公開)
監督:セルジオ・ガローネ、キャスト:ジャコモ・ロッシ・スチュアート、アルド・サンブレル
1971 Anche per Django le carogne hanno un prezzo
Auch Djangos Kopf hat seinen Preis
監督:ルイジ・バッツェラ、キャスト:ジェフ・キャメロン、ジョン・デズモント
1971 Il mio nome è Mallory "M" come morte
Django – Unerbittlich bis zum Tod
監督:マリオ・モローニ、キャスト:ロバート・ウッズ、ガブリエラ・ジョルジェッリ
1971 Quel maledetto giorno della resa dei conti
Django – Der Tag der Abrechnung
監督:セルジオ・ガローネ、キャスト:グイド・ロロブリジーダ、タイ・ハーディン
1971 Una pistola per cento croci
Django, eine Pistole für hundert Kreuze
監督:カルロ・クロッコーロ、キャスト:トニー・ケンダル、マリーナ・ムリガン
1971 W Django!
Ein Fressen für Django
監督:エドアルド・ムラルジア、キャスト:アンソニー・ステファン、クラウコ・オノラート
1972 La lunga cavalcata della vendetta
Djangos blutige Spur
監督:タニオ・ボッチア、キャスト:リチャード・ハリソン、アニタ・エクバーグ
1987 Django 2: il grande ritorno
Djangos Rückkehr
監督:ネッロ・ロサーティ、キャスト:フランコ・ネロ、クリストファー・コネリ
さて、その元祖となった『続・荒野の用心棒』の主人公ジャンゴだが、監督のセルジオ・コルブッチはこの名前をヨーロッパのジャズ・ギターの第一人者ジャンゴ・ラインハルトから持って来ている。ラインハルトはベルギー生まれのロマ、フランス語でマヌシュと呼ばれるグループの出身らしいが、このマヌシュは『50.ヨーロッパ最大の少数言語』の項で述べたようにドイツのロマ、シンティと同じ方言グループに属している。つまり「ジャンゴ」という名前は本来ロマニ語。その名前の由来について調べてみたら2説あった。
1.Django(またはDžango)はJean、Johannes、Giovanniという名前のロマニ語バージョンである。
2.Džangoとはロマニ語でI wake up、または I woke upという意味である。
困った。どちらの説でも疑問点が出てきてしまったからだ。
1について:
Jean、Johannes、Giovanniのロマニ語バージョンならDžanoとかいう形にはならないのか?その/g/という音素はどこから来たのか。
2について:
調べてみたら「目覚める」というロマニ語はdžungadol、方言によってはdžangadolまたはdžangavel(辞書形は3人称単数形)だそうだが、それなら「私は目覚める」はdžangaduaまたはdžangavua(シンティ)、あるいはdžangadavもしくはdžangavav(その他の方言)、「私は目覚めた」だと džangadomまたはdžangavomとか何とかになると思うのだが。/d/または/v/の音素が消えてしまっているのはなぜか?
つまりどちらも確かに形は似ているとはいえ、前者は音素が一つ余り、後者は一つ足りない。帯に短し襷に長しでどちらもストレートにDžangoにはならない。もっともシンティのdžangavuaが一番近いなとは思ったし、
džangavua→[dʒanɡavʊa]→[dʒanɡaʊa]→[dʒanɡɔ:]→[dʒanɡɔ]
とかなんとか音の変化の流れを解釈すれば説明がつかないことはない。
しかし私はロマニ語ができないので確かなことはわからないし、こんな小さなことは本なんかには出ていないだろうと思ったので人に聞くしかないなと判断し、まずオーストリアのグラーツ大学の教授に上のようなことを述べ、「どっちが正しいんでしょうか?」と問い合わせのメールを出したが音沙汰なし。「この忙しいのになんなんだこの馬鹿メールは?」と無視されたか(されて当然だと我ながら思う)、スパム扱いされて自動的にゴミ箱行きになったかと思い、今度はヨーロッパでロマニ語研究プロジェクトを立てているもう一つの大学、イギリスのマンチェスター大にメールを出してみたら2日後に次のような返事が来た。
Dear 人食いアヒルの子,
unfortunately we are not able to help you.
Reconstructing the etymology of personal name is almost impossible if there are no written records of a given name across a considerable length of time. Unfortunately, this is the case for Django.
Sorry to disappoint you,
*** ***
Romani Project
School of Languages, Linguistics & Cultures
University of Manchester
Manchester M13 9PL, UK
*** ***という部分は研究員の方の名前だが、もちろん伏せ字にしておいた。しかし2日もたってから返事が来たということは一応まじめに検討してくれたのか、それとも単に放っておかれたのか?どちらにしても大変お騒がせしました。
と、いうわけでジャンゴという名前の由来は「わからない」というつまらないオチに終わってしまった。
この記事は身の程知らずにもランキングに参加しています(汗)。
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